まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
『もう終わったよ』
振り向くと、犬神は宙に浮いたまま、ひっくり返って溺れていた。
「…………えーと……?」
宙に浮いた巨大な水の玉の中で、溺れているのだ。
「ツクヨミさん………?」
『彼女に当たる前に犬神にかけた重力を解除した。すると重力がかかっている前提で動いていた身体は吹っ飛ぶ。攻撃は明後日の方向を破壊し、そこに偶然通っていた水道管を破壊。その水を操ったスサノオが犬神をあそこに留めたってわけさ』
「簡潔な説明をありがとう。けど、そんなうまくいくなんて……」
「少ない可能性を手繰り寄せるのが、私の力だよ」
「っ、うぅ……」
瓦礫の下からくぐもった声がする。
「………もしかして」
『ちょうど瓦礫の隙間にいたことで、潰されなかった幸運を与えた』
「じゃあ……」
『でも、死んじゃってた方がよかったなら、今からでも』
「生きてていいんです!」
ツクヨミノミコトの重力操作で瓦礫を浮かせ、離れたところに積み、女子生徒を救出する。
制服はホコリやら瓦礫のかけらなどで汚れてはいるものの、目立った怪我は無さそうだ。
『月海さん』
安心していると、イカネさんに声をかけられた。
「イカネさん」
呼ぶと、隣に金髪美女が現れる。
「後片付けといきましょう」
イカネさんは私のカバンからメモ帳とサインペンを取り出すと、簡単なお札を作った。
神は道具を選ばない。
「退魔の護符です。これに力を込めて……」
私はイカネさんの教え通りに、受け取ったお札に霊力を込め。
「急急如律令」
唱えた。
お札はキラキラした煙となり、風に溶けて渦を巻く。
その渦は次第に広がり、犬神の体液が汚染した土も、巨大化していた犬神と、それを捕らえていた水の玉も、触れたそこから風に溶ける。
ひと通り風が吹けば、光は花火のように消えた。
一瞬の静寂。
さぁ、と清涼な空気が流れる。
「これで浄化は完了ですが………」
残されたのは、破壊の跡。
えぐれた校舎と、破裂した水道管。
「……逃げていいかな?」
こんなの、私のポケットマネーじゃ到底無理。
遠い目をして乾いた笑いをこぼしていると、イカネさんに労わるように背中を撫でられた。
「ご安心ください」
差し出されたのは、またもお札。
「この者を召喚ください。きっとお役にたてるかと」
「イカネさん、ありがとう」
私はお札に霊力を込め、唱える。
「急急如律令」
すると、お札は光り、人の形をとる。