まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
「ご機嫌いかがです?」
「えっと……」
「何があったか、覚えていらっしゃいますか?」
彼女は数度、まばたきをしてから青ざめた。
「そんなっ、嘘でしょ!? パパが有名な霊能力者の家から買ってきた犬が!」
「どこで買ったって?」
この場で聞こえるはずのない、男の声。
私と彼女は同時にそちらを向く。
「先輩……」
「火宮君……!」
荒れる息、上気した頬、汗で張りついた髪をかきあげる仕草。
目が惹きつけられた。
「その犬、どこで買った?」
火宮桜陰は、女子生徒を熱っぽい視線で見つめる。
はくはくと口を動かすだけで、答えない彼女の顎を持ち上げ。
「答えろ」
至近距離で射抜くような視線で脅す。
「か……かみずる。神水流って言ってたわ………」
色気を振り撒き、相手を酩酊させることで情報を吐かせる。
これがハニートラップかぁ、とぼんやり思った。
「よくできました」
「はひいぃ………」
先輩の悪い笑みを至近距離で被弾した彼女は、オーバーヒートしたように、くたりと身体の力を抜いた。
目を回して気絶している。
「先輩、どうしてここに?」
「お前がいつまで経っても帰ってこないから、探してたんだよ」
「ご主人様のてをわずらわせるなんて、ぶれいだぞ!」
「だぞ!」
先輩の後ろで手を繋いだ美少年ふたりが野次を飛ばす。
「そしたら、神力と妖気が膨れ上がる気配がして、お前だと思ったから駆けつけてやったんだよ」
「かんしゃしろ!」
「しろ!」
マシロ君、ヨモギ君から変な教育受けちゃってもう……。
「こんな狭いところで結界もなしに暴れて、建物が壊れたりしたらどうする気だったんだよ……」
「えーと……」
手遅れだったとは言えない。
「あははははは……」
「ったく、幸い目立つ破損はなさそうだが。もしやってたら始末書に加え、給料天引きモンだ」
先輩は、オオクニヌシさんが直すところを見ていなかったようだ。
ペナルティは嫌なので、頼みますよ、ツクヨミさん!
「それはさておき、神水流か。火宮と並ぶ、五家のひとつだな………」
先輩が女子生徒から聞き出した、彼女に犬神を売った家。
そして。
「神水流って、あのお化け屋敷の座敷牢の家ですよね」
確認のために口に出しただけだったが、先輩が食いついてきた。
「月海、それは本当か!?」
「座敷牢のことなら、確かだと思いますよ。門の表札に、神水流ってかかっていた、はず」
内側のツクヨミさんとスサノオさんも頷いてくれる。
先輩は考え込むように顎に手を当てた。
「偶然とは思えねぇ。……きな臭い話になりそうだ」
重たい沈黙が流れる中、月だけがいやに明るかった。