まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
『ちぇっ、面白くない』
ツクヨミノミコトがぶちぶち不満をたれる。
『月海は、スサノオ贔屓じゃないかい? 私の方が君に、こんなに友好的だというのに』
私がスサノオさんを指名したことが不満らしい。
「……一応確認ですが、ツクヨミさんが鬼を誘き寄せたんですか?」
『偏見さね。たまたま人間を食いにきた鬼が近くを通りかかっただけさぁ』
「つまり、認めたってことでよいですね」
あまりにもタイミングが良すぎて疑ってしまう。
敵を連れてくれば戦えると思って、無駄な犠牲を増やされても困る。
ツクヨミノミコトとの付き合いは考えなければいけないかな。
『違いますー。遅かれ早かれ退治されていましたー』
抗議は黙殺。
確かに、他の人を襲う前に退治する選択肢もあるのだろう。
しかし、出会ってしまったが為、戦うしかなかったとも考えられないだろうか。
「ツクヨミノミコトともなれば、出会わない幸運を与えることができたはず」
そうすれば誰も傷つかない。
『なぜ私がそんなことするんだい?』
「たとえばなしですよ。でも、こんなこと頻繁にされると、信用できなくなる」
あらかじめイカネさんに作ってもらっていたお札を事切れた鬼に貼ると、鬼は風に溶けるように消えた。
手を合わせ、目を閉じる。
ご冥福をお祈りします。
『………この力を持っているだけで、どうしても誤解される。少し不都合な事が起こっただけで、私の介入を疑う』
「でも実際、介入しているんですよね?」
『君たちがそれを望むからさ。運が良ければ当然の結果。運が悪いのは、ツクヨミが悪さをしたからだ』
心当たりがある。
私は鬼との遭遇を、ツクヨミノミコトのせいにした。
『……後でいいがかりをつけられるくらいなら、初めから介入してやるわ。全ての不幸は私のせいだと叫んでやる』
「いいがかりなんてそんな………」
『誰かにとっての幸運は、誰かにとっての不運。相反する願いがぶつかる時、必ずどちらかが不運と感じるだろう』
「だったら初めから何もせず、目の前の現象をただ眺めるのがいいとでも?」
『…………どう思う?』
ツクヨミノミコトの言う事には一理ある。
目の前にいる人だけを救うのも、自分の裁量で救わなかったりするのも、全てに角が立つ。
たとえ手を出さなかったとしても、能力があるというだけで理不尽に言いがかりをつけられる。
きっと、ツクヨミノミコトは考えていたんだ。
途方もなく長い年月をかけ、同じ考えを何度も繰り返した、末の答えが今なのかもしれない。
私に意見を求めてくるということは、まだ納得のいく答えが見つかっていないのかもしれない。
「………………」
難しい問題に、十数年しか生きていない私は、これ以上何も言えなくなった。