まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
「これは俺の考えだが。……怖いだけを理由に、一方的に排除しようとするから、争いが起きる。理解しあえれば、共存の道を歩めるかもしれない。………皆で幸せになれる可能性を潰さないでくれ」
「でもさっき、鬼に襲われて……」
「鬼の全てが襲ってくるやつじゃない。話のわかるやつもいる」
「そんなの、わからないだろ!」
「敵対の意思がないことは、あそこの鬼たちが証明している」
遠巻きに見てくるだけの鬼たち。
数だって多いのだ。
襲うならとっくにやっている。
「偏見はよくないよな」
「うぐっ………」
「なんでお前が傷つくんだよ」
先輩の言葉が今の私には痛いほど刺さる。
「ぼくを雑魚って言ったのは偏見じゃないの?」
「雑魚は雑魚だろう」
「雑魚じゃないもん! いつかすごく偉くなるもん!」
「おうおう、元気なのはいいことだな。偉いぞー」
先程、鬼を斬ったことを思い出す。
出会うところまではツクヨミノミコトの介入があったかもしれない。
けれども、そこから先は当人が決める事だ。
あの鬼は、私たちを襲うことを選んだ。
それだけの話。
出会ったから戦わなければならないなんてことはない。
ツクヨミノミコトは、心まで操ることは出来ないのだから。
戦いたくないけれど、未来の犠牲を減らすために、遭遇を選んだのかもしれない。
ツクヨミノミコトの正義と私の正義。
確かに、視点が変われば変わるもの。
ツクヨミさんは多くを語らない。
語っても信用されないから、冗談めかして喋るのだ。
冷静になって思う。
運とは、きっかけにすぎない。
将来人を食う鬼を今退治できたことは、僥倖であったと私も思う。
他にも言いたいことはいっぱいあるが、まずは。
「ツクヨミさん、ひどいこと言ってごめんなさい」
仲直りをしてくれませんか?
あなたの話を聞かせて。
『…………いいよぉ』
ツクヨミさんは泣きそうに声を詰まらせて、でも悲しみの色ではなかった。
先輩は小人相手に、大人げなく勝利を収めていた。
鬼たちは、いつのまにかいなくなっている。
気絶した小人と別れ、先輩と頂上に到着すると、点呼が始まっていたので、先輩と別れた。
私は休みなしで下山にはいる。
くっそ、お昼ご飯抜きだよ。
時間もなければ、食料も巻き上げられた。
全ての元凶、ふざけた男子どもに不幸が訪れますように。
下山でも、男子どもは相変わらずふざけている。
そして再び、地蔵に躓いた。
「うわっ!」
「またかよ!」
「ふざけんな!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!」
彼らは仲良く転んで崖から落ちていった。
それはもう綺麗なまでに、彼らだけ。
「きゃああぁぁっ!」
「おい救急車!」
不幸な事故に騒然とするなか、芋けんぴを抱える小人が笑っていた。