まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
大馬鹿者め!
遠くで花火が上がる。
音が遅れて聞こえてきた。
月明かりの下、私とイカネさん、桜陰先輩と美少年ヨモギ君は、学校のグラウンドの中央に立っていた。
時計の針が9時を指し、音が止んだ。
「……………時間だ」
先輩が印を結び、人避けの術と、妖魔を誘き出す術を展開させる。
イカネさんのお札の効果もあり、一般人に被害の出ない完全な結界が出来上がった。
黒い靄がたちのぼり、虫や動物のようなものを形作っていく。
「花火の効果で炙り出された妖魔を一掃する。行くぞ!」
「うん!」
「はい!」
「いたしましょう」
先輩の号令に、ヨモギ君と私とイカネさんが続く。
刀を手に斬りかかる先輩は、一刀ののちに数体の妖魔を塵に還す。
イカネさんが手を横に払うと、前方に幾筋もの雷撃が走り、数十もの妖魔が塵になった。
ふたりの圧倒的な力で隠れがちだが、ヨモギ君も火の粉を振り撒き、着弾すれば一瞬で燃え上がらせ塵にしていた。
私も負けていられない。
先輩にもらった剣を振り、目の前の一体一体を確実に倒す。
どうだ見たか、これが毎日ボコボコにされた成果!
周りは、光の速さで刀が走り、吹雪が吹き荒れ、蛍火が業火となる。
それに比べて私は、なんとも地味である。
熊のようなものの爪を弾いて、空いた胴に剣を刺す。
それでも仕留められずに、防御と攻撃を繰り返し、やっと一体。
数だって、彼らに遠く及ばない。
私だって、術が使えればこのくらい………。
「月海さん!」
「んのっ、バカッ!」
気付けば、先輩に腰を抱かれて空中にいた。
先程まで私が立っていたそこでは、蛇の頭と胴体が輪切りにされ、塵になる。
「戦場で気ぃ抜くな、大馬鹿者め!」
これ、先輩に助けてもらえなければ、あの蛇に丸呑みされていたやつですね。
「……っ、ぁ…………」
喉がカラカラになって、言葉が出てこない。
「式神! こいつを頼む」
「ええ」
私はイカネさんの側に降ろされ、先輩は再び妖魔の間を駆けていく。
脚が震えて立つことも出来ない私は、ただただ、流れるような銀閃を、蛍火を、稲光を、銀世界を、見ている事しかできなかった。
準備を怠ったつもりはない。
「クソッ、まだ減らないのかよ」
「オレもつかれてきた……」
開戦からずっと動き回っている先輩も、慣れない術を行使するヨモギ君も、疲れが出てきている。
「月海さんは、わたくしがお護りします」
微笑むイカネさんの顔も、疲労の色が隠せない。
こんなに強い彼らがなぜ苦戦を強いられるのか。
私というお荷物があるからだ。
訓練を怠ったつもりはなかったが、蓋が開けば役立たず。
ただボコられてただけなのだ、多少見切りが上手くなったくらいでは実戦の役に立たなかった。
彼らの戦いを間近で見るチャンスはなかなか無い。
本当なら、自分の糧にする為、勉強させてもらうのが正しいのだろう。
彼らは強いひとたちだ。
私がいてもいなくても変わらないだろう。
だけど恥ずかしくて、長い前髪で顔を隠した。