まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
生徒が下山途中で事故に遭った為、山を下りたものから解散となった。
明日から数日、学校は臨時休校となる。
野次馬がちらほら残る中、もちろん私は帰宅を選ぶ。
火宮家までの道を歩いていると。
「お前のクラス、大変だったな」
脇道から出てきた先輩が、手を挙げて近づいて来た。
待ってたんですか。
「そうですね、あの人たちが小人に喧嘩売ったから……」
「あの雑魚神の仕業か。やるじゃねえか」
でも、あそこまでしたのは、先輩に叩きのめされた八つ当たりも含まれているのではなかろうか。
『もちろん、私は何もしていないよぉ?』
信じてますよ、ツクヨミさん。
あれは小人がやったことでしょう。
彼らを見下ろして大笑いしてたし。
謝罪もせず通り過ぎたのだから、自業自得。
天罰だ、ザマアミロ。
……と、知らなかったら言えたんだけど、小人の介入があったと知っていると複雑だ。
『そんなに難しく考えなくていい。蹴飛ばしといて謝罪もしない、仕返しなのだから。人間だって同じようなことするだろう?』
やられたらやり返す、みたいなものか。
目には見えない力だから、大袈裟に考えすぎたのかもしれない。
『相手が雑魚神でも、天罰で間違っちゃいないさ』
あんたも雑魚神扱いかい。
『現に、彼らに虐められてた子は救われた』
そうなんだ……。
クラスメイトにそこまで踏み込んでなかったので、いじめがあったなんて知らなかった。
でも、崖から落とすのはいささかやり過ぎでは。
『安心しなよ、命まで取られちゃいない。彼らの親の信仰する神は雑魚神より力がある。おこぼれに与って、せいぜい骨折程度で済んでいるさ』
ふざけて落ちたのは自業自得。
仕返しできた小人は大喜び。
私も複雑ながらも大喜び。
虐められていた人も大喜び。
親は子が無事で大喜び。
ハッピーエンドだね。
『わかるかい?』
わかる気がするよ、どこが欠けても不満が残る。
例えば、彼らが奇跡的に無傷だったら。
痛い目をみてほしい小人と私と虐められていた人が不満を覚える。
例えば、彼らが打ち所が悪く命を落としていたなら。
小人と虐められてた人は喜んだとしも、家族は悲しむだろう。
……私にはそこまでの恨みはないから。
怪我しろこのやろーくらいにしか思ってないから。
小人がどれくらいの仕返しを望み、崖から落としたかはわからない。
彼らの親が祈る神がどこまでの妨害をしたかはわからない。
結局、彼らがふざけたりしなければ、蹴飛ばした地蔵に手を合わせれば、今回に限っては避けられた事象にすぎなかっただろう。
起きた事にたられば話など、無意味だ。
『重要なのは、雑魚神とおこぼれの加護がぶつかって、骨折という結果になったということだね。もし私がどちらかの味方をすれば、どちらかの有利になっただろうさ』
骨折以上の怪我か、奇跡的な無傷か。
ツクヨミノミコトは、パワーバランスを崩すほどの力がある。
それは、全てを思い通りに動かすような。
「お前、悪い顔してるぞ」
先輩に指摘され、はっと頬を押さえた。
うっかりツクヨミさんに誘導されてた。
同調は危険だ。
自己満足な正義感振り回して、いつか間違いを犯すかもしれない。
「すみません先輩、私が物騒なことしそうになったら止めてください」
「……何する気だよ」
「今すぐに何をするわけじゃないですけど」
「…………」
先輩は、考えるように空を仰いでから、私に視線を戻す。
「わかった、止めてやるから安心しろ」
「ありがとうございます」
「中のやつにも言っとけ」
先輩は、たぶん気づいてる。
「力だけ渡して引っ込んでろってな」
私がツクヨミさんに誑かされているって。
でも、それじゃ駄目なんですってば。
私はあのひとたちと、友達になりたいんですから。
今度は私が空を仰ぐ番だ。
ままならないなぁ。