まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
4 いざ神水流家。
雑魚のふりをしていた先輩のおかげ
火宮家の門を開けると、当主、以下門下の者が揃って怖い顔をしていた。
「当主、皆様もお揃いで何かございましたか?」
先輩が恭しく頭を下げる。
私も先輩の斜め後ろでそれを真似た。
「……………」
先輩の前に出てきた火宮当主は、右手を振り上げると、鋭い風切り音をあげて先輩に平手打ちした。
「っ!」
私は声を我慢した。
頭から地面に叩きつけられた先輩を冷酷に見下ろして、当主は言葉を発する。
「桜陰。貴様、とんでもないものを飼い慣らしていたな」
当主は、転がる先輩の頭を踵でぐりぐり踏み潰す。
私は身体を硬くして、唇を噛み、先輩に駆け寄りたいのを耐えていた。
『大丈夫だ。先輩には、私の加護がある』
ツクヨミさんが励ましてくれる。
わかっているよ。
部外者の私が出ていく方が面倒になるって。
当主は先輩の顔面を蹴飛ばしてから、踵を返した。
「こやつを牢へ入れよ」
「はっ!」
部下たちが、ぐったりした先輩を持ち上げ、運んでいく。
当主に続いて、他の人たちも撤収しようとしたが。
「待って!」
咲耶が当主の前に飛び出した。
「我の邪魔をするのか」
「お待ちください父さん!」
遅れて来た弟君が、咲耶を庇うように前に立つ。
「お義父さん、お姉ちゃんも同罪だよ! お姉ちゃんも牢屋に入れて?」
同情を誘うように目をうるうるさせ、上目遣い。
当主は咲耶に『お義父さん』と言われた瞬間、不機嫌そうに眉を顰めた。
「父さん! 桜陰と、あの女の部屋は繋がっています。そして、二人の部屋には力の漏出を遮るお札が貼られていました。確実に共犯です」
弟君が咲耶の言葉を補足する。
私は内心で舌打ちした。
『勝手に部屋に入ったんだねぇ。となると、奴らが言ってるのは狐か、鬼か………』
「………その女も牢屋に連れて行け」
「はっ!」
私も力任せに両腕を掴まれ、引きずられるままになる。
あーあ、面倒で大変なことになってしまった。
切なく腹の虫が鳴る。
「…………お腹空いたなぁ」