まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー


「………お前、えげつないな」



「ふふっ、お褒めに預かり光栄です。………お似合いですよ、先輩」



私は、漆黒のスーツを纏う先輩に、恭しくお辞儀した。



「お前もな」



先輩も、私の服を褒めてくれる。

私達は、見張り役二人のスーツを剥ぎ取ったのだ。

もともと着ていたジャージを彼らに着せる義理もないので、彼らはパンツ一枚で石畳の上に転がっている。

服を手に入れたおかげで、目立たず歩ける。

必要な犠牲だった。

外に通じる扉を開ける。

そっと見回したが、人の気配はない。

大勢いた人たちは出払っているようだ。



「たった二人の見張りでいいと思われているなんて、俺たちを舐めすぎだろ」



「警戒されないのは良いことです。長年、雑魚のふりをしていた先輩のおかげですね」



「フッ………。積年の怨み晴らしてくれよう………」



「ノリノリだねぇ」



「うるせぇ。急ぐぞ、子供たちが危ないかもしれないんだ」



「了解」



先頭を走る先輩について行った。

誰とも遭遇することなく、先輩の部屋にたどり着く。

罠が仕掛けられていないとこを確認してから、そっと扉を開ければ、狐耳の背中が震えているのが見えた。



「ヨモギ、無事だったか……!」



「……っ、ごしゅじんさまぁっ!」



涙で瞼を腫らしたヨモギ君が先輩に抱きついた。



「うあああああぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」



先輩はヨモギ君の背中や頭を撫で、落ち着かせようとする。

規則正しく、優しく背中をたたく先輩。

その間に、私は部屋を見まわした。


お札は無事。

荒らされてもいなさそうだ。

弟君の報告だけで、特に査察が入ったわけではないらしい。

先輩の部屋から直通の扉を使って、自室に入る。

こちらも荒らされてはいない。

ありったけのマシュマロをカバンに詰め込む。

しゃくりあげる声が少しずつおさまっていく。



「聞かせてくれ、ヨモギ。いったい、俺たちがいない間に何があった?」



先輩の問いに、ヨモギ君は言葉に詰まりながらも話してくれた。



「このやしきに、しらないひとたちがおおぜいきたんだ」



「そういえば、今日は五家の会合だったな」



「はじめはここにいたんだけど、マシロが、おなかすいたって、なにかとってくるって、でていった……」



ヨモギ君は先輩の服をギュッと握りしめる。



「そとがさわがしくなったとおもって、みにいったらマシロがにんげんにつかまってた。マシロ、ぐったりして、つれていかれた。オレ、なにもできなくて……っ!」



思い出したのか、ヨモギ君は再び泣きだす。



「大丈夫、大丈夫だ」



先輩は、ヨモギ君に言い聞かせながら、その身体をあやすように撫でる。

私は、マシュマロのたっぷりつまったカバンをヨモギ君に背負わせた。



「うっ、うぇ………?」



涙を溜めた目で振り向くヨモギ君に、私は好戦的に笑う。



「腹が減っては戦はできぬさ」



「俺もいる、大丈夫だ」



先輩が、音が鳴るほど強くヨモギ君の背中を叩いた。

それは、自身の不安をかき消すよう、言葉にできない励ましを、全て詰め込んだもの。



「っ、うん!」



ヨモギ君は、腕で強引に涙を拭って立ち上がった。

大切な友人を取り戻す為に。




< 43 / 90 >

この作品をシェア

pagetop