まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
「なんでぇ? 行ったのは本当だもん。隠すことないよね」
「咲耶、きみは夢を見てたんだよ。きみは何も知らない」
「早く認めちゃいなよ。ボク、もう帰りたいー」
「桃木野の、これも次期当主の勤めよ……」
「…………めんど」
どうやらこの場には、五家当主と次期当主、それに加えて咲耶がいるらしい。
「百歩譲って花嫁はいいとしてだ。鬼の子は見過ごせん。罰として、鬼の子は我が神水流が貰い受けよう」
「待て。抜け駆けは許さん。金光院が!」
「いいや、我が浄土寺こそが相応しい」
「鬼は我が火宮のものだ」
「不正ばかりのお主に任せておけぬ」
当主達は、鬼の子、おそらくマシロ君を取り合うだけでなく、代替案の提示もする。
「鬼が駄目ならそこの生まれ変わりを寄越せ」
「桃木野、何を…!」
「コノハナサクヤヒメの生まれ変わりは、我が桃木野家に一番相応しいだろう」
「咲耶は僕の花嫁だ!」
「待ってよ当主! ボクこんな女いらないんだけど!」
「咲耶がいらないってどういうことさ!」
「アンタどっちの味方なの!?」
取られたくないのに、いらないと言ったら怒るって、めんどくさいやつ。
「アタシだって、こんなオカマいらないもん」
「ボクの方がお断りなんだけど、こんな脳内お花畑みたいなやつ」
「ブサイクが調子に乗らないで」
「はぁ? どう見てもボクの方がかわいいし。なんならアンタに比べて断然性格までかわいいし」
「男のくせにカワイイとかキモいんだけど」
「ボクはボクがカワイイことに誇りを持ってる。アンタに何を言われる筋合いもないね」
文化祭のステージでアイドルしてた桃木野柚珠。
植物使い同士、咲耶との相性は最悪のようだ。
いつぞや桃木野と揉めそうだと言ってたのは、こういうことだったんですね。
先輩は呆れた顔で首を横に振っていた。
「どちらも我が家で見つけた、我が家のものだ。渡さぬ」
「そんなわがまま言ってもね」
「生まれ変わりは陽橘君のものとしても、鬼の子は破門したという子息のものだろう。それはもう貴様の手を離れている」
「たまたま我が家に紛れ込んだのだろう。我が火宮家で見つかったのだから火宮のものだ。もし愚息のものだとしても、あれのものは我のものだ」
先輩が画面の下で怒りに顔を歪めているのがわかった。
報酬も手柄も全て取り上げられてきた先輩。
破門した後も、まだ搾取しようというのか。
「話にならんな」
「誰のものかはっきりさせましょう」
「その子息はここにはおらぬのか」
「……屋敷で謹慎させております」
「呼び出せ」
「しかし……」
「貴様に拒否権はない。呼び出せ」
「……御意に」
これ、とってもまずいですよねぇ。
先輩はここにいる。
地下牢には、見張りの二人がパンイチでおねんね中。
『ツクヨミさん……』
「…………」
ツクヨミノミコトは私と先輩の期待を受けて、親指をたてた。
「白虎」
おじさんが呼ぶと、強大な神力が現れる。
「白虎の足なら、瞬く間に連れてご覧に入れましょう」
「浄土寺なら安心だ」
「我ら、息子に式神を譲った身。こんな時口惜しいよ」
「なにをおっしゃる。お二方とも、まだ完全に譲っておらぬくせに」
「ほほほっ、なにを言うかと思えば」
「とっとと連れてくるが良い」
「そうだな。白虎」
浄土寺と呼ばれたおじさんの命令がくだる。
しかし白虎は動かない。
「どうしたのだ、白虎」
喉をぐるぐる鳴らすだけだ。
その時、正門の方から轟音が響いた。