まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
「やっぱり咲耶は天才だ……」
感嘆の声をあげる陽橘。
期待の眼差しで人型を見ていた咲耶は、光が消えた瞬間、汚いものを見る顔になった。
召喚自体は成功した。
しかしこの召喚は、彼女にとって失敗だった。
「サクヤ、お姉ちゃんが来たよ」
美女とは程遠い、大柄で、筋骨隆々な女性。
顔にはそばかすが散っていて、農家のおばちゃんのイメージが近い。
コノハナサクヤヒメの姉ということだから、イワナガヒメかな。
「来ないで! アンタみたいな見るに耐えないブスが姉なんて恥ずかしい!」
「サクヤ………」
「アンタとアタシは赤の他人! どっか行ってよ!」
咲耶は言うなり、陽橘の胸に顔を埋めた。
弟君は大切そうに咲耶を抱きしめて、傷ついた顔をするイワナガヒメを睨みつけた。
イワナガヒメの気持ちはわかるよ。
当然。
この発言は、私にも刺さるところがあるから。
少しして、落ち込むイワナガヒメの肩を叩く男がいた。
「いい筋肉だな。どんなトレーニングしてるんだ?」
浄土寺常磐だ。
「え、………あの………」
「行くところがないなら、俺と一緒に来ないか?」
無遠慮にイワナガヒメの筋肉に触れ、褒める浄土寺常磐だが、彼女はそれを笑って受け入れていた。
筋肉だるま同士、仲良くなったらしい。
一方で、時々視界の端にちらつく銀の糸。
あまりに高速な剣戟に、他人が入る隙がない。
先輩は、無限の刃物を持つ雷地と刀一本で渡り合っていた。
「楽しぃねえ」
「この、戦闘狂がっ」
複数の剣を笑いながら振り回す雷地に対して、先輩は苦しそうだ。
多少の不運も力でねじ伏せられる。
それが雷地の強みだ。
だから、ツクヨミノミコトの力が効きにくい。
それでも加勢すべきか悩んでいると。
「ツクヨミ、ヨモギを頼む!」
「わかった」
先輩から指示が飛んだ。
ツクヨミと呼んだのは、この場で私を月海と呼べない、先輩の気遣いだ。
「マシロを取り戻すのは、お前だ。ヨモギ!」
「うんっ」
瞬間、先輩と雷地が炎に包まれた。
「ご主人様っ!」
「はははっ! 文化祭で僕をコケにしてくれた借りを返すよ」
「やったねハル君」
弟君の仕業か。
彼らに向けた人差し指を上から下に振り下ろす。
「ぐっ……」
「きゃぁっ!」
ふたりは床に沈んだ。
落とし穴に落ちたように、上半身だけが床上に出ているので、しばらく身動きも取れないだろう。
「行け!」
先輩の声が聞こえた。
剣戟の音は続いている。
急所は避けていそうだが、複数箇所から血を流す先輩に未練を残しながら。
振り切るように走り出すヨモギ君を追って、戦場の大広間を出た。
賭けの大将の首を狙って、正門へ向かう当主達の後ろ姿が見える。
ヨモギ君と私はそれを追わない。
賭けが何であろうと、なんやかんやで反故にされると相場が決まっている。
モノを手にした方が勝ち。
狙うはマシロ君のみ。