まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
「………それと、神水流の不正の証拠、探してたんだよね?」
響に差し出されたのは、書類の束とUSB。
中身を確認すると、妖魔を人工的に混ぜてハイブリッドを造ることに成功。
などの研究結果が書き連ねられていた。
ゆくゆくは、妖魔の身体の一部を人間へ移植することにより、人工的に兵隊を作り出す展望まで綴られていた。
「……ここに来るまでに閉じ込められていたのは、研究の産物。犬神や、蠱毒なんかも作ってる………。それを売って資金稼ぎも……」
研究結果をめくっていくと、帳簿も現れた。
商品と販売先が記されている。
仕入れ台帳には、人の名前と性別、享年、死因などが書かれていた。
死体をお買い上げしてたのか。
取引先は裏家業やら大財閥など様々。
いい証拠になりそうだ。
素人ではわからないけど、そこはツクヨミさん何卒。
一通り書類を確認したところで、響に疑問をぶつける。
「どうして、自分の家を裏切るような真似を?」
「………やり方が気に食わなかっただけ……」
響の慈愛の眼差しの先で、狐耳美女がヨモギ君を抱きしめていた。
彼女の為か。
きっと、文化祭の幻術は、彼女を助ける為に仕掛けた救援信号だった。
わざわざ建物を出た後の表札に『神水流』と書き残していたのが証拠。
私たちはそれで神水流に疑いの目を向けた。
もし敵に見つかれば、報復を受ける。
賭けだっただろう。
「これをやると、火宮家への追及が有耶無耶になるかもしれないけど………いいかな……?」
「何故私に聞く」
「貴方の従者は、火宮の縁者だから。………火宮当主が言ってた、破門する愚息って、彼だよね」
確信をもって言い当てる。
「……ふへっ………おかしいよね。破門した子供を欲しがるなんて、滑稽………」
もさもさの髪が隠す表情はわからない。
下手な誤魔化しを試すか、脳天への一撃で記憶を飛ばせるか。
物騒な考えがよぎる。
「………安心して、言う気はないよ。………それこそ、他の家の有利になる」
「おや? これから神水流を裏切るっていうのに?」
「……報いは受けるべきだけど、無闇に貶めたいわけじゃない……」
同感。
加担した者には制裁を受けてほしいけど、命令に逆らえなかった者をいたずらに傷つけたいわけじゃない。
謀反とか、大変体力精神力諸々のいる大仕事。
私にはできないわ。
『代わりに私が呪ってやろう。証拠も残さず不幸な事故の完成だ』
おやめなさい。
『………津波をおこせば……』
ツクヨミさんに毒されないでください。
『それはいい。私とスサノオが組めば、簡単に選別ができるねっ』
解散!
そんな物騒なもの、即刻中止してしまいなさい。
にへっ、と口の端をつりあげる響。
「風呂で溺れればいいのに……」
『君も同じ思考かい?』
ワクワクしないで。
響君、ツクヨミさん達と意気投合しそうだね。
……想像の中では何度やっちゃっても構わないけど、実行はやめてね?
『愛だねぇ』
何の話ですか。
『響少年の愛を感じるよ。愛する妖狐を痛めつけられた仕返しがしたいのさ』
愛する……。
モサモサ髪の隙間から、ヨモギ君を抱きしめる妖狐を見つめる瞳は優しそうで、苦しそうで。
………愛しい、か。
「用は済みました。早く脱出しましょう」