まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
「うん、そうだね」
イカネさんに促され、気合を入れ直す。
「来た道を戻って、早く先輩にこれを届けないと」
途端、ビービー、とけたましく鳴る警告音。
見回すと、通ってきた通路には、等間隔に設置された赤いランプが激しく光る。
「なに!?」
「防衛システムが作動した……。檻を斬るから………」
「………すまない」
響の視線がチクチク刺さる。
こんなところは現代技術。
迂闊だったとスサノオノミコトが謝罪する。
それを、ツクヨミノミコトが庇った。
「檻を斬ったせいなら、斬った瞬間から鳴っているはずさ。今頃になって作動したなら、誰かが手動で動かしたに違いない」
「……何言ってんの?」
どちらも私の口から出た言葉なので、知らない人には混乱を招く。
「そうだねぇ………。少年、この資料はどこから持ってきたんだい?」
「あそこの部屋だけど………」
ツクヨミノミコトはなるほどと頷いて、そこへ足を向ける。
中は資料室のようで、アルミ製の棚に段ボール箱や紙の束が詰まっている。
中央のパソコンに表示される『えまーじぇんしー』の文字。
床に散らばる紙の一部が壁の下に挟まっている。
「この部屋はこんなに荒れていたのかい?」
「……いや、僕はやってない」
つまり、響の後、誰かがこの部屋にいたという事になる。
視る。
スローガンの書かれたポスターが貼られた壁。
机の上の、書類のはみ出したファイル。
散らばるペン。
タイル張りの床に、積み上げられた書類。
灰皿に吸い殻。
見まわしてから、正面の綺麗な壁に目を止める。
「夜の闇に抱かれておやすみ」
指を差し、唱えると、ゴンッと鈍い音がして、壁が消えた。
その先には、白衣の研究員らしき人が倒れている。
彼の周りには書類が散らばっていた。
「幻術が得意な家系。私だってそうと知っていれば見抜けるさ。術師を寝かせてしまえばいい」
君にはこんな真似できないだろう、とイカネさんにドヤる。
イカネさんに言われたことを気にしているんだね。
「不自然に壁の向こうに切れた書類。そこに幻術が展開されていることなんて、素人でもわかる、ただの推理でしょう。しかも、不完全な幻術、すり抜けも簡単ですわ」
それを気に留めず、クールに返すイカネさんカッコいい。
暖簾に腕押し糠に釘。
孤高なイカネさんの視界に入れないツクヨミさん。
ホロリと泣けてくるよ……。
頑張って縋りつこうとするのに突き放される。
先輩にボコられる私に似ていて、応援したくなるわ。