まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
「これ!」
ヨモギ君が掲げたリュック。
中身はこれでもかと詰め込んだマシュマロ。
私の小遣いの結晶だ。
「……それが、どうなさいましたか?」
「しらないの? マシュマロはゆうじょうのあかしなんだよ」
「だよ!」
イカネさんは理解ができないと眉を寄せた。
「だから、これをあのひとたちにあげたらなかよくなれるよ!」
「よ!」
「んなわけないじゃん………」
響が皮肉のようにつぶやいた。
まったくもって同意見。
ヨモギ君とマシロ君がマシュマロで仲良くなったのは事実として、それが他に通用するかといえば、大違いだ。
しかし、美少年ふたりの瞳はキラキラしている。
マシュマロに対する信頼がすごい。
イカネさんはやがて諦めたようにため息をついた。
「………はぁ。仕方ありません。試すだけ試しましょう」
リュックを取り上げて、開封したマシュマロを宙にばら撒く。
それはイカネさんの起こした強風に乗って、向かってくる実験動物達を襲う。
マシュマロのつぶてだ。
ああ、私のお高いマシュマロが………。
先輩に経費として請求していいかな、いいよね………?
私のマシュマロ達は、残さず実験動物達の口に入る。
あら、素晴らしきコントロール、流石はイカネさん、美人。
せめて美味しく味わってくれ。
拝むように手を合わせた。
しかし、奴らの速度は緩まない。
イカネさんは様子見をやめた。
「いきます」
「だめぇっ!」
ヨモギ君が飛び出して、あちらとこちらの間に結界を張った。
五家当主の攻撃を見事に防ぎきったそれが、イカネさんの攻撃を防ぐように立ち塞がる。
「ヨモギ!」
「ヨモギ君!」
「馬鹿! 帰ってきなさい!」
マシロ君と私とヨモギ母が同時に声を上げる。
イカネさんは眉を顰めて発射寸前の雷を消した。
壁の強さは知っている。
この近距離では跳ね返って、こちらが攻撃を受けてしまう。
ヨモギ君は壁の向こう側にいた。
彼の背中側から、実験動物達が迫る。
まさか、犠牲になるつもりなのか。
「やめて! 先輩が悲しむ!」
剣を叩きつけてもヒビも入らない。
強情め。
少ない時間で勝ちの一手を探れるか。
間に合わないと諦め、無惨な最期を覚悟する。
だめだ、私はヨモギ君を任されたのに、先輩になんて言い訳したら。
そんなくだらない思考のせいで、時間を無駄にした。
「ひぃっ……!」
すぐそこまで迫る実験動物達に息を呑む。
それは急に足を止め、五歩の距離を空けて首を垂れた。
波のように最後尾まで傅くのを見届けてから、ヨモギ君は振り返り、胸を張る。
結界は消えていた。
「ほらね、だいじょうぶだろ?」
「ふえぇぇぇぇ」
泣き出すマシロ君をヨモギ母がなだめる。
無言で見守っていた響は安堵の息を吐く。
私は膝から崩れ落ちた。
「もう、危険なことはしないで。………先輩に殺されるかと思った」
「きけんじゃないもん。みんな、ここからでるよ。オレについてこい!」
ヨモギ君の号令に、実験動物達は空間が震えるほどの雄叫びをあげた。
ほんとうに仲良くなりやがった。
マシュマロにきび団子のような効果でもあったのかな。
ただの市販のお高めの美味しいマシュマロに。
『ツクヨミさん、何かした?』