まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
五家の次期当主
時は、ヨモギと天原月海が大広間を出たところまで遡る。
「仲間を逃すんだ。お兄さんかっこいいー」
「当たり前だろ。俺様だからな」
常人の目には映らない攻防のなか、涼しい顔で軽口をたたく。
今はギリギリ対処できているが、圧倒的手数の多さに火宮桜陰がじわじわと押されていた。
薄皮一枚の回避が続く。
金光院雷地にはまだまだ余力があり、隙あらばいつでも大きな一撃を放てる準備をしながら少しずつ速度を上げていた。
だが、桜陰も負けてはいない。
身体強化を常に限界まで高め、限界を更新し続ける。
(ったく、こいつ一人に時間かけてられないってのに……!)
少しでも周りに気を取られたら目の前の男に斬られる。
ほかを相手取る余裕もない。
四面楚歌の中、桜陰は、月海の残した式神だけが頼りだった。
雷鳴が幾度となく轟く。
「ぬしとやり合う日が来るとはな。悪いが、負けてやれんぞ」
「結構ですわ。貴方に負けるほど落ちぶれていませんもの」
「ここで決着をつけるのも一興か」
「うふふ。後悔しないでくださいませ」
それのほとんどをオモイカネとタケミカヅチの、互いの撃ち合いと相殺に消費しているが、桜陰と雷地の戦いの邪魔をしそうな陽橘と咲耶に牽制も放つ。
オモイカネは、主人の大切な人を守るため。
タケミカヅチは、主人が戦いを楽しんでいるところに水を差されたくないため。
利害が一致していた。
陽橘にとっての桜陰は、当主の父がスカウトした邪魔な存在。
目の上のたんこぶだ。
この乱戦で始末したい相手だった。
「クソッ! ぽっと出のくせしてなんなんだよ!」
陽橘は高速で刀を振り回す仮面の男を睨みつける。
彼に放った一撃は無傷。
ツクヨミノミコトの生まれ変わりを名乗る女に床に埋められて、流れ弾なる雷にも襲われて、散々だ。
「ハル君、アタシ怖い……」
「大丈夫だよ、咲耶は僕が守るから」
すり寄る咲耶を抱きしめたところで、背中に強い衝撃。
「ぼうっと突っ立ってんじゃない!」
「次はこの鉄扇の餌食になりますわよ」
飛ばされ、床を転がった先、壁に強かに肩を打ちつけた。