まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
陽橘と咲耶が先ほどまでいたところには、大木と見紛うほどの蔦が蠢いていた。
蔦の先の蕾が開き、花が咲き、種が飛ぶ。
同時に飛んだ種は四方八方から踊り子を襲うが、踊り子は舞うようにそれを全て回避した。
種は壁や床に当たり、蜜を弾けさせる。
そこは、桃木野柚珠とアメノウズメの戦場だ。
むせ返るほどの甘い香りが漂ったのを、鉄扇の起こす強風が散らす。
「っ、げほ、ごほっ………」
「もうっ! なんでアタシがこんな目に!」
髪もボサボサ、と文句を言いながら、ホコリに汚れた咲耶が近くにいた人物に喚く。
「ちょっとそこのブス! アンタ、アタシの式神でしょ! アタシを守りなさいよ!」
ビクリと肩を揺らすイワナガヒメを、浄土寺常磐が庇うように前に出る。
「お前、何言ってんだ?」
「……何よアンタ? 邪魔なんだけど」
「要らないって言ったのはお前だろ。だからこいつは俺が貰う」
腰を引き寄せられたイワナガヒメは頬を染める。
「はぁ? 何言ってんの? それはアタシの奴隷なの。アンタのじゃない。大人しく返しなさい」
「奴隷扱いする奴に、こいつはやれんな」
「アンタの意見は聞いてないの」
咲耶はイワナガヒメに視線をやり、手を顔の下で組む。
瞳を潤ませ、眉尻を下げ、首を傾ける。
「アタシのお願い、聞いてくれるよね? お姉ちゃん?」
「………っ、わたしは……………」
「無理すんな。お前は俺が守る」
「…ぁ…………」
「邪魔しないで!」
咲耶がぶりっ子を即座に脱ぎ捨て、凶悪な顔で蔦を伸ばした瞬間。
絶対零度が撫でるように走り抜けた。
熱帯を瞬間冷凍した、と表現した方が近いだろう。
一瞬にして蔦は凍りつき、空間を冷気が支配する。
柚珠の植物も、蜜も凍り、それをアメノウズメが破壊した。
影響なく戦い続けているのは桜陰と雷地だけだ。
「……っ、はぁ……っ」
吐く息が白い。
肌や喉に針を当てられているようだ。
咲耶は何が起きたかわからず、噛み合わない歯を鳴らす。
「咲耶っ!」
陽橘が炎を起こして暖をとる。
戦場にいながら霊力で身を守っていない咲耶だけが、冷風の効果をもろに受けていた。
それでも蔦のように凍り付かなかったのは、陽橘が咲耶を庇うように立ち回っていたおかげと、もうひとつ。
「人の身では、死んでしまうから」
オモイカネが、彼らを見ていた。
彼女の後ろでは、タケミカヅチが腕を振り上げた体勢で厚い氷に覆われている。
その余波で部屋の温度が氷点下まで下がったのだ。