まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー


「俺のお勧めは薪を背負っての山道ダッシュで」



「あんた、奇遇だね」



常磐とイワナガヒメは大広間の隅で話しに花を咲かせていた。

初対面であるはずなのに打ち解け、長い付き合いがあるかのように気安い。

あまりにイチャイチャするふたりに、咲耶と陽橘の気持ちは同じ。

自分たちは、何を見せられているんだ。



「暇なら僕を助けなよ」



「そこの人、この超絶美少女を助ける栄誉を与えてあげるから!」



他家に偉そうに助けを求める陽橘。

本性がバレても、何度断られても、ぶりっ子を続ける咲耶には感服する。

が、それだけだ。



「筋トレ終わりの風呂が最高で」



「次はわたしが沸かしますね」



「そりゃあいい。交代で湯に浸かろう」



ふたりは無視を決め込む。

入る隙がない、と言った方が正しいかも知れない。

なさけなく転がって、凍えているふたりに声をかける者があった。



「陽橘クンはいつまで転がってるのー? いや、弱いから仕方ないねー」



「はぁ?」



雷地が桜陰の刀を受け流して挑発する。

そして陽橘は単純だった。

弟の性格をよく知っている桜陰は、これから起きることが想像できて舌打ちした。



「…………ハッ。こんな氷、すぐに溶かしてッ……!」



全身から炎を立ち上らせる。

同時に地震が起きたが、氷はびくともしない。



「弱い弱い! 陽橘クンってその程度で次期当主名乗ってたのー? 同じ五家の次期当主として恥ずかしいなー」



さらに煽る雷地。



「くっ、そ。こんなもの……!」



さらに火力を上げる。

氷を溶かし始めたが、それ以上に自身の服を焦がし、火傷を負う。



「キャッ! 熱いッ! もう嫌っ!」



隣の咲耶も炎に呑まれた。

自身を守る術のない彼女の火傷の度合いは陽橘より高い。

陽橘の自爆はそれだけに留まらず、木造の屋敷を炙る。



「逃げるぞ」



「はい」



常磐とイワナガヒメは手を繋いで大広間を飛び出す。

炎が渦を巻いた。

爆風と共に外へ出るアメノウズメと、爆風に飛ばされる柚珠。

桜陰は雷地の斬撃の回避ついでに庭に跳び、それを追うように雷地が床を蹴る。

陽橘と咲耶以外のすべての人が屋敷から避難したところで、再び地震が起き、タケミカヅチを留める氷はついに砕けた。



「やれ! タケミカヅチ!」



「ああ!」



拘束を解かれたタケミカヅチが、炎の中、雷を両手に纏わせた瞬間。



ドゴォッ。



と、大広間の真下から大量の水が噴き出した。

いきなり大きな音を立てて、大広間をぶち抜く噴水が上がったものだから、誰もが争いをやめ、水柱を見上げる。

大広間に残されていた三人は空中に吹き飛ばされ、タケミカヅチは一回転して、主人の側に華麗に着地。

陽橘と咲耶は池に落ち、水飛沫をあげた。



「………くっ、あはははははっ!」



桜陰は腹を抱え、声を上げて笑う。

弟が火を放った屋敷は消火された。

地面から水柱が立ち上り、破壊するというとんでもない方法で。



(偶然なのか、狙ってやったのか知らないが。あいつ、派手にやりやがったな)



月光に照らされて虹の掛かる水柱の上で、不遜に笑う彼女の姿がよく見える。



「ふっ………。頭が高い。神の御前ぞ」



同時に放たれる威圧。

耐性のない者は気絶していく。

そんな様子を見下ろした彼女は、無邪気で、楽しそうで、嬉しそうで、満足そうだった。




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