まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
「うわっ!」
「ギャーッ!」
屋敷に、一陣の風が駆け抜けた。
結界の穴から侵入してきた白銀の弾丸が、逃走を図る者達を吹き飛ばし、巨人を真っ二つに切り裂いたのだ。
「んなっ……!?」
「えっ!?」
驚く私達の目の前で、巨人の傷口から凍りつき、全身に広がる。
「ガウウウウウ!」
耳をつんざく獣の咆哮を受け、凍りついた巨人は砕けた。
細かな氷の破片となったそれは、月光で輝き、役目を終えたとばかりに溶けて消える。
「………ふぅ……………」
不要となった浮遊を解き、屋根の上の侵入者を見上げると、それもこちらを見下ろしていた。
それは、強大な神力を放つ、冷気を纏った白銀の大柄な狼。
立ち姿だけで、畏怖の念を抱かせるには十分だ。
「俺の嫁を攫ったのは、貴様らか」
威厳ある静かな声。
巨人を一撃で粉々にした狼を敵に回したいと思う者はこの場にいない。
逆鱗に触れないよう、息を殺す。
鋭い目で見下ろす侵入者の狼に、ヨモギ母が駆け寄る。
「あなた……!」
狼は屋根から飛び降り、ヨモギ母に身を寄せた。
あなた、ということは、あの狼がヨモギ君のお父さんだ。
言われてみれば、似て、似て、にて………?
先輩は、目を細めて彼らを見て、やがて頷く。
どっちだろう。
中型犬状態なら、似てないこともないかも。
むしろ似ている。
狼はヨモギ母と二言三言交わして、彼女を背に乗せた。
「待って…!」
ヨモギ母は、駆け出そうとする狼の背を叩き、ヨモギ君に手を伸ばす。
「こっちへおいで、わたしの子……」
それは、生き別れた親子の再会。
ヨモギ君はまだ幼い。
親元で暮らすのが自然に思えた。
胸の奥の寂しさに気づかないふりをして、顔をつくる。
ヨモギ君は迷いなく走り出し。
「ご主人様もいっしょじゃなきゃいやだ」
先輩に飛びついた。
先輩もそれを両手を広げて受け止める。
まあ、そうでしょうね。
先輩にべったりなヨモギ君が離れるなんてありえない。
予想はついていたけど、緊張した。
育ての親である先輩も、安堵の顔だ。
絶対に離れないとばかりに先輩にしがみつくヨモギ君を引き剥がすのは可哀想と思ったのか、ヨモギ母が狼の背から降りようとする。
「なら、わたしも………」
「ならん」
狼の一言で、吹雪が舞う。
一瞬で、池に氷が張った。
「お前をここに置いておけん。連れ帰る」
ヨモギ母の襟元を咥え、結界の穴へ跳躍するが、穴の手前で足を止めた。
「息子よ、強くなったらば、顔を見せに来い」
「その子のご主人さんも、いらっしゃいね。…………響君も、ありがとう」
それだけ言って、ふたりは夜の闇に消えた。