まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー


ツクヨミノミコトはいつもの茶化した声でなく、真剣に答えた。



「生き返らせるには、あるすべての条件を満たしていなければならない。……その時に私がその場にいたとして、できることはなかったよ」



顔をあげたイカネさんが続ける。



「もとより神は第三者。見ているだけの存在。しかし当時、あやかしによる人間の虐殺が問題視されていました。このまま人間を蹂躙されることを重く見た術師がアマテラス様に請い、我々は人間に手を貸すことにしたのです。圧倒的弱者であった人間の味方をする事で、均衡を保とうとした」



それからイカネさんは、当主達を睥睨する。



「人間とあやかしが良い関係を築き、共存するというのならおおいに結構。しかし、同じ悲劇を繰り返そうものなら見逃せません。立場が変わり、術師がその力をもって、あやかしを身勝手に虐殺するというのなら、我々神は、あやかし側につくことも考慮しております」



妙齢の金髪美女に好き勝手言われて黙っている当主達ではない。

彼らは瞬間湯沸かし器のように憤慨した。



「お前が勝手に言っていることだろう。慈悲深きアマテラスオオミカミが許すものか!」



「貴様がアマテラス様を語るな。これは決定である」



いつもの丁寧な口調が消えていた。

イカネさん、怒ってるな。

そんなお顔も美しいと気軽には言えないくらいに、今にも爆発しそうな怒りの炎を理性で押し留めている。

もちろんそんなお顔も美しいのだが。

美人の怒り顔は倍恐ろしい。

彼女の勢いに圧された当主達は縮こまってしまう。



「第一、アマテラス様が人間の味方をすると決めたから、我々は従っているのです。それさえなければ、わたくしは契約者以外どうなっても構わない」



イカネさん………私を大事に思ってくれてる。

胸がキュンっと高鳴る。

嬉しさを噛み締めていると、ツクヨミノミコトが嫌な顔をしていた。



『おえー』



冗談でもやめてくれないかな。



「ひとつ確認なんだが、最高神アマテラスオオミカミが、その術師と契約していたとでもいうのか?」



先輩が片手をあげて質問すると、イカネさんは微笑む。



「契約したのですよ」



「なに!?」



「契約し、盟約した。一代限りで終わるはずの約束を守り続けたのは、アマテラス様の御心によるもの」



「随分、その契約者に心酔していたんだな」



先輩の感嘆に、イカネさんは懐かしむように頷いた。



「ええ。彼は、我が身を犠牲に、他人を助けるような善人でした」



口元が緩み、かと思えば引き攣り、ため息。

その思い出の方は、とんだ問題児だったのね。



「して。その、契約者の名は?」



「天原」



「あまはら………?」



「五家を束ねる家ですわ」



私と先輩は驚き、次期当主達は心当たりがなさそうに首を傾げる。



「………どうしてそれを……?」



当主達は全員可哀想なくらい真っ青だ。

イカネさんは彼らにただ、微笑んだ。



「わたくしを誰だと思っているのですか?」



当主達はばっと顔を逸らす。

しかし、顔色と震えはおさまっていない。

問い詰めなければならないことは沢山ありそうだが、物証はないので後回し。



「話を戻しましょう。我々には、あなた方をあちらの世界へ送る用意があります」



イカネさんの提案に、鬼達は首を横に振った。



「酒呑童子様がこちらにいるのなら、我々もこちらに残ります」



「あなた様に危機があれば、すぐさま駆けつけます!」



「そこの人間! この方に何かあれば、貴様を真っ先に八つ裂きにしてやる!」



「肝に銘じます」



先輩は胸に手を当て、一礼した。



「それと人間ども! 次、用もなく我らの里を訪れることがあれば、皆殺しにしてやる!」



それから鬼達は、もといた山に帰るべく、この場を後にした。

心なしか、彼らの顔が幾分かスッキリしているように見えた。


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