まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
やわに育てた覚えはない
「っぷは!」
「ゲホッ、ふざっ、けんなテメェ!」
「あはははは」
私たちは、海に落ちたかと思うと、次の瞬間にはぬるめのお湯の中にいた。
掴まれていた襟元を引っ張られ、水面に背負い投げられる。
派手に水飛沫が飛んだ。
「痛いよ先輩。この身体が怪我をしてしまう」
「俺様がこいつをそんなやわに育てた覚えはない」
「そうだねぇ。毎日毎日ボコられて、受け身だけは上手くなったもんねぇ」
加えて、ツクヨミノミコトの身体強化は私よりも上手いおかげでノーダメージだ。
肩までお湯に浸かった状態で、先輩を見上げる。
立てば膝、座れば肩の量の湯が常に張られたここは。
「………火宮家の大浴場かよ」
周りを見まわした先輩が現在地に気づいた。
銭湯のような広さをほこる火宮家浴場。
幸い、今は全員出払っていて利用者はなし。
先輩は仮面を外し、濡れた前髪をかきあげる。
「ここの風呂、海と繋がってんのか?」
「スサノオノミコトの能力ですね。水のあるところを自由に行き来できます。あの一瞬、ここと海を繋げたのでしょう」
「便利だな」
先輩とイカネさんが話すのをぼんやりと聞きながら、私の視線は女性陣から逸らせない。
濡れた服がはりつき、彼女たちの美しい肢体を浮かび上がらせる。
所々透ける肌、見えそうで見えない秘部。
眼福。
「おい。何見てんだよ!」
何やら先輩に言いがかりをつけられるが、誓って、私は先輩を見ていない。
イカネさんとアメノウズメに釘付けで、先輩など眼中になかった。
「先輩、照れてるの? カワイイね」
『ツクヨミさんはもう黙ってて……』
誤解しか生まない。
先輩の目が据わる。
「テメェ、力だけ置いて引っ込め」
「わーっ。助けてあげたのにひどいんだー」
「お前が勝手にやったことだろ」
「そうやって責任逃れするなんて、ずるいぞぉ」
「お互い様だ」
神水流家の騒動で犠牲になったひとたちを生き返らせたことについてか、とぼんやり思う。
あれも具体的な指示のない命令だった。
「ところで先輩。水に濡れた女の子を目の前にして、劣情をもよおさない?」
胸元のボタンをゆっくり外す。
イカネさんのような美女ならともかく、私がやると視界の暴力だから!
ぺたんこ不細工のストリップなんて黒歴史どころじゃない。
「………」
「………アマテラス様に報告させていただきます」
視線をふいと逸らし返事に困る先輩に、イカネさんが助け舟をだしてくれた。
おかげで天原月海の尊厳は守られた。