まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
薬品を煽り、巨大化した当主だが、あれはロボットのようなものだった。
桜陰が霊力の鎧で怪我を偽装するように。
ドーピングで増した霊力により、幻覚を、身体から切り離しても消えない、実体を持つものに変化させた。
だから、攻撃しても手応えはあったし、蹴りや踏みつけで被害がでた。
しかし、遠隔操作されていて、巨人の中に標的は居ない。
「響少年、神水流の当主は……」
それに気付いたツクヨミノミコトは、響にささやいたが。
「……知ってるよ。あの小心者に自滅覚悟なんて選択肢はない。今頃どこか遠くに逃げおおせてるさ………」
さすがは親子だと感心する。
「考えていることがわかるのだね」
「……不本意だけど」
「それで? このまま逃すのかい?」
「……まさか。いずれ、僕の手でカタをつけるよ。他の家に邪魔されないようにね」
響の目から光が消えた。
今、彼の脳内で当主はどんな拷問にあっているのだろうか。
そんな響に力を貸したくなった。
「明日の夜、私のもとに来るがいい」
それだけ言って、意識を目の前の巨人に向ける。
次期当主達が攻撃を無効化されたところだった。
ツクヨミノミコトはほくそ笑む。
愛する者を長年痛めつけられた恨みよ。
君は、どんな復讐を果たすのかな。
ああ、楽しみでならないよ。
「……と、いうわけさ。響少年には場所を提供した。先程渡したのは、その空間への鍵だね」
「神水流響は、当主を殺す気か?」
桜陰は非難の眼差しをツクヨミノミコトに向けた。
彼の言葉は、こう言い換えられる。
お前は神水流響に父親を殺させる気か。
彼女はただ月を見上げるだけ。
「さてね。私は場所を用意しただけ。これから先、彼が何をするかは私のあずかり知らぬところだ」
会話の終わりを告げるように、火宮家の門が目の前にあった。