まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
巨人を創り出し、逃走することに霊力のほとんどを失った神水流当主は、屋敷から数十キロ離れた山の中にいた。
屋敷のある方を見ると、巨人が暴れている。
結界が破れ、周囲にまで被害が及ぶのも時間の問題か。
全滅してくれたら御の字。
そうでなくても、己の逃げる時間を稼げたらそれでいい。
「しばらく身を潜めて、ほとぼりが冷めた頃に……」
その時、近くの木々が揺れた。
「……誰だ!」
「ガルルルル………」
大型の熊のような妖魔。
「グルルル………」
「キィキィー」
大型の猿のような妖魔の大群。
その他、気配だけで姿を確認できないが、多くの妖魔に囲まれていた。
彼らは神水流当主を敵として認識している。
「このわしを誰だと思っている! 五大名家の当主だぞ!」
「ガウッ!」
「クソッ!」
残った霊力を振り絞って、襲いくる奴らを切り裂き、走る。
「ガアアァァァ!」
「ピイガァァァアアア!」
「っはあ、はぁ………っ!」
獣の爪が腕を掠める。
数も多く、振り切れない。
そんな時、水の音が耳に届く。
「しめた!」
神水流当主は水音のする方へ走る。
彼は水の術者。
山の中より、水場のある方が力を発揮する。
泥と血と汗にまみれながら長かった森を抜ける瞬間、何かに躓いた。
顔面が地面に削られる。
痛い痛い、これも全て響のせいだ!
群がる妖魔を薙ぎ払い、こける原因になった地蔵を睨みつける。
「クソがっ!」
地蔵を水刃で真っ二つに切り裂いた、上の部分を水流で飛ばし、追ってくる妖魔にぶつけた。
地蔵は守護の神。
雑魚の分際でも我が役に立てたことを誇りに思うがいい。
「どうだ! ………なにっ!?」
やったと思ったが、地蔵の頭は猿の妖魔にキャッチされ、野球投げで帰ってきた。
それは神水流当主の鳩尾にめり込み、背後の崖に突き落とす。
視界いっぱいに星空が広がり、そこに小さな影が浮かぶ。
小学生くらいの男の子を、手のひらサイズにした外見。
一目見て、先程の地蔵である事はわかった。
己を突き落とした犯人であろうその小人が、目の前でニタァと笑って、消えた。
地蔵を真っ二つに割った道連れだとでも言うのか。
この我に向かって……。
当主のプライドが許さなかった。
「このクソ、雑魚神めぇー!」
悲鳴虚しく。
岩に背中を強かに打ちつけ、跳ねて、転がり、うねる水に呑まれた。
しかし、彼は運が良かったらしい。
次に意識が戻った時、海のど真ん中に浮いていた。
「ふっ、ははっ……。ははははははははは!」
腐っても水の家の当主。
水は彼の味方をしたのだ。
肉体の損傷は重症であるが、命を落とすまではいかない。
まずは身を隠し、身体を治してから奴等に報復するのだ。
ここにいれば我は負けない。
水は我が意のままに動くのだから。
「………ん?」
目の前をひときわ大きな流れ星が。
長く尾をひくそれは、我を祝福しているようではないか。
幸先がいい。
天は我に味方した。
力を増すように、次第に流れ星は大きくなり……。
「……………へ?」
神水流当主と衝突した。
強い衝撃とともに、肉体がぐちゃぐちゃにこねられ混ぜられるような、気持ちの悪い感覚が襲う。
酔って、目を回し、記憶はそこで途切れた。
再び意識を取り戻した時。
「おはようございます、元当主」
目の前にあやしく微笑む響がいた。