【お天気】スキルを馬鹿にされ、追放された公爵令嬢。不毛の砂漠に雨を降らし、美少女メイドと共に甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い~
26. 老練の凄腕農芸家
焼け野原を淡々と耕していくミラーナ。オディールも額に汗しながらミラーナに魔力を注入し続ける。
ヴォルフラムは区画整理用の杭を打ったりしながら、甲斐甲斐しく二人についていった。
そんな一行を、徐々に高く昇った砂漠の太陽がジリジリと照り付ける。
「姐さん、暑くないですか? これ以上暑くなったら倒れちまいますよ」
タオルで滝のような汗を拭きながらヴォルフラムが言った。
「あぁ、そうだね……、さすがに砂漠はキツいな……」
オディールはピーカンの青空を見上げ、額の汗をぬぐいながら少し考える。
「じゃあこうしよう。【清らかなる雲よ、我が空に集え】」
両手を空に掲げ、祭詞を告げるオディール。
すぐにモコモコと白い雲が湧き上がり、集まってきて辺り一帯が薄暗くなった。
「それでこれだ! 【龍神よ、凍てつく息吹で氷のつぶてを降り注げ】」
風上の方に祭詞を唱えたオディール。暗雲がブワッと渦を巻いたかと思うと巨大な雹が降ってくる。ドスドスドスと隣の丘の上に注いだ雹は一帯を白く彩った。
「あれ、痛いんじゃぞ……」
レヴィアは渋い顔で見守り、オディールは嬉しそうにパンパンとレヴィアの背中を叩いた。
さらに雹は降り注ぎ、やがて雪山と成長していく。
「おぉ、これは涼しい!」
ヴォルフラムは歓喜する。
ひんやりとした空気が大地を覆い、押し寄せてくる冷気はむしろ肌寒くすら感じるレベルだった。
「うわぁ、涼しい……」
ミラーナも冷気を浴びながら目をつぶり、幸せそうな表情を浮かべる。
「ふふーん、すごい? ねぇ僕ってすごい?」
オディールはまるでモデルのようにひじを高く掲げて腰をひねり、鼻高々にポーズを取っておどけた。
「うふふっ。もはや全然砂漠じゃないわねぇ……。オディはすごいわ」
ミラーナは、その暖かい視線でオディールの金髪に手を伸ばし、優しくなでる。
笑いを誘うつもりだったオディールは、調子が狂ってえへへへと照れ笑いした。
◇
その後も畑づくりは淡々と進んで行った――――。
ただ、百メートル四方を耕すだけで二時間もかかり、なかなかそう簡単にはいかない。途中、ミラーナのスキルランクが上がって、耕せる面積も増えていったが、それでも街のみんなを食べさせられるサイズは広大である。まだまだ時間はかかりそうだった。
ヴォルフラムが入れてくれたお茶を飲みながら一行は一休みする。
「ここには何を植えるんじゃ?」
レヴィアはお茶をすすりながらオディールに聞いた。
「植えたいものはたくさんあるんだよね。麦は基本として、トマトやレタス、ナスにニンニク……、果物やオリーブも」
「ぬははは、なかなかに欲張りじゃな。でもそれぞれ土づくりも違えば育て方も違うじゃろ? どうするんじゃ?」
「え!? 同じじゃダメなの?」
「カーーーーッ! 無計画かい!」
「姐さん、水はけ悪いとトマトなんかは育たんですよ」
ヴォルフラムは農家出身だけにその辺は分かっているようだった。
「うーん、分かった! ヴォルを農業大臣に任命しよう」
オディールはヴォルフラムの肩をポンポンと叩く。
「いやいや、子供の頃に家を手伝わされてただけなんで、自分じゃ無理っす!」
「むーん……」
「しょうがないのう。種の買い出しがてらちょっと聞いてきてやろう」
レヴィアはお茶をゴクゴクと飲み干すと、ボン! と爆発音を発してドラゴンとなり、大きく羽ばたきながら悠然とどこかへと飛んで行った。
◇
緩やかな丘を耕し終わったころ、バサッバサッというはばたく音が聞こえてきた。日も傾き始め、そろそろ引き上げようかと思っていたタイミングだった。
見上げるとドラゴンの背に誰かが乗っている。作務衣を着た老人のようだった。
レヴィアはバサバサッと力強く羽ばたいて一旦空中で止まると、そのまますぅっと地面へと降り、地響きを響かせながら着地する。
おっかなびっくり降り立った老人の髪は真っ白で、木の杖をつきながらオディール達に手を上げた。
「やぁやぁ、お嬢ちゃんたち。話は聞かせてもらったよ。こりゃぁ凄いねぇ」
老人の笑顔は、日々の農作業による日焼けで黒々して、数多の経験が深くしわとして刻まれていた。
金髪おかっぱ少女に戻ったレヴィアは老人の肩を叩きながら言う。
「凄い味方を連れてきてやったぞ。老練の凄腕農芸家、ガスパルじゃ」
「よろしくな。ワシは農業オタクだから、農業のことなら何でも聞いてくれよ」
ガスパルは人懐っこそうな笑顔でオディールに笑いかけると、紳士的に右手を差し出した。
「ありがとう! よろしくお願いします!」
オディールは人のよさそうなガスパルの参画に嬉しくなり、力強く握手を交わす。どれだけ優秀で気持ち良い仲間を集められるかがセント・フローレスティーナの成否を左右するのだ。レヴィアの紹介なら間違いないだろう。
花の都へと続く壮大な一歩を始めた確信に、オディールの心は熱く高鳴っていた。
ヴォルフラムは区画整理用の杭を打ったりしながら、甲斐甲斐しく二人についていった。
そんな一行を、徐々に高く昇った砂漠の太陽がジリジリと照り付ける。
「姐さん、暑くないですか? これ以上暑くなったら倒れちまいますよ」
タオルで滝のような汗を拭きながらヴォルフラムが言った。
「あぁ、そうだね……、さすがに砂漠はキツいな……」
オディールはピーカンの青空を見上げ、額の汗をぬぐいながら少し考える。
「じゃあこうしよう。【清らかなる雲よ、我が空に集え】」
両手を空に掲げ、祭詞を告げるオディール。
すぐにモコモコと白い雲が湧き上がり、集まってきて辺り一帯が薄暗くなった。
「それでこれだ! 【龍神よ、凍てつく息吹で氷のつぶてを降り注げ】」
風上の方に祭詞を唱えたオディール。暗雲がブワッと渦を巻いたかと思うと巨大な雹が降ってくる。ドスドスドスと隣の丘の上に注いだ雹は一帯を白く彩った。
「あれ、痛いんじゃぞ……」
レヴィアは渋い顔で見守り、オディールは嬉しそうにパンパンとレヴィアの背中を叩いた。
さらに雹は降り注ぎ、やがて雪山と成長していく。
「おぉ、これは涼しい!」
ヴォルフラムは歓喜する。
ひんやりとした空気が大地を覆い、押し寄せてくる冷気はむしろ肌寒くすら感じるレベルだった。
「うわぁ、涼しい……」
ミラーナも冷気を浴びながら目をつぶり、幸せそうな表情を浮かべる。
「ふふーん、すごい? ねぇ僕ってすごい?」
オディールはまるでモデルのようにひじを高く掲げて腰をひねり、鼻高々にポーズを取っておどけた。
「うふふっ。もはや全然砂漠じゃないわねぇ……。オディはすごいわ」
ミラーナは、その暖かい視線でオディールの金髪に手を伸ばし、優しくなでる。
笑いを誘うつもりだったオディールは、調子が狂ってえへへへと照れ笑いした。
◇
その後も畑づくりは淡々と進んで行った――――。
ただ、百メートル四方を耕すだけで二時間もかかり、なかなかそう簡単にはいかない。途中、ミラーナのスキルランクが上がって、耕せる面積も増えていったが、それでも街のみんなを食べさせられるサイズは広大である。まだまだ時間はかかりそうだった。
ヴォルフラムが入れてくれたお茶を飲みながら一行は一休みする。
「ここには何を植えるんじゃ?」
レヴィアはお茶をすすりながらオディールに聞いた。
「植えたいものはたくさんあるんだよね。麦は基本として、トマトやレタス、ナスにニンニク……、果物やオリーブも」
「ぬははは、なかなかに欲張りじゃな。でもそれぞれ土づくりも違えば育て方も違うじゃろ? どうするんじゃ?」
「え!? 同じじゃダメなの?」
「カーーーーッ! 無計画かい!」
「姐さん、水はけ悪いとトマトなんかは育たんですよ」
ヴォルフラムは農家出身だけにその辺は分かっているようだった。
「うーん、分かった! ヴォルを農業大臣に任命しよう」
オディールはヴォルフラムの肩をポンポンと叩く。
「いやいや、子供の頃に家を手伝わされてただけなんで、自分じゃ無理っす!」
「むーん……」
「しょうがないのう。種の買い出しがてらちょっと聞いてきてやろう」
レヴィアはお茶をゴクゴクと飲み干すと、ボン! と爆発音を発してドラゴンとなり、大きく羽ばたきながら悠然とどこかへと飛んで行った。
◇
緩やかな丘を耕し終わったころ、バサッバサッというはばたく音が聞こえてきた。日も傾き始め、そろそろ引き上げようかと思っていたタイミングだった。
見上げるとドラゴンの背に誰かが乗っている。作務衣を着た老人のようだった。
レヴィアはバサバサッと力強く羽ばたいて一旦空中で止まると、そのまますぅっと地面へと降り、地響きを響かせながら着地する。
おっかなびっくり降り立った老人の髪は真っ白で、木の杖をつきながらオディール達に手を上げた。
「やぁやぁ、お嬢ちゃんたち。話は聞かせてもらったよ。こりゃぁ凄いねぇ」
老人の笑顔は、日々の農作業による日焼けで黒々して、数多の経験が深くしわとして刻まれていた。
金髪おかっぱ少女に戻ったレヴィアは老人の肩を叩きながら言う。
「凄い味方を連れてきてやったぞ。老練の凄腕農芸家、ガスパルじゃ」
「よろしくな。ワシは農業オタクだから、農業のことなら何でも聞いてくれよ」
ガスパルは人懐っこそうな笑顔でオディールに笑いかけると、紳士的に右手を差し出した。
「ありがとう! よろしくお願いします!」
オディールは人のよさそうなガスパルの参画に嬉しくなり、力強く握手を交わす。どれだけ優秀で気持ち良い仲間を集められるかがセント・フローレスティーナの成否を左右するのだ。レヴィアの紹介なら間違いないだろう。
花の都へと続く壮大な一歩を始めた確信に、オディールの心は熱く高鳴っていた。