【お天気】スキルを馬鹿にされ、追放された公爵令嬢。不毛の砂漠に雨を降らし、美少女メイドと共に甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い~
31. 現場ネコ
「こんなので満足かしら?」
少し乱れた呼吸で、ミラーナはオディールを見つめた。
「もうバッチリだよ!」
浮かれたオディールは小鳥のように飛び跳ねながら梁の上を進み、楽しげにくるりと回る。しかし、その高さは五メートル。落ちたら笑いごとではない高さだった。
「オディ! 危ないわよ!」
ミラーナは眉をひそめて注意する。
「へへーん、大丈夫だって!」
逆にオディールは調子に乗ってクルクルッと踊った。しかし、安全を軽視する現場ネコには災いが降りかかると決まっている。
一陣の風が浮かれたオディールに襲いかかる。
「おっとっと……。うわぁぁぁ!」
バランスを崩して梁の縁でワタワタするオディール。
「きゃぁぁぁ!!」「うひぃ!」
ミラーナの心を刺すような叫びの中、オディールは真っ逆さまに落ちていった。
『えっ? マジ?』
オディールはスローモーションで動く世界を見つめ、終わりの瞬間がこんな形で訪れるとは夢にも思わず、ただ細く小さくなっていく梁を呆然と見つめるばかり……。
「どっせい!」
掛け声が響き、オディールが気がつくと、ヴォルフォラムの温かく頼もしい腕の中に包まれていた。
「姐さん、あぶないですよ」
ニコッと笑うヴォルフォラム。
オディールの危機を見越し、早くから心配して対策を練っていたヴォルフラムは、ただ優しく微笑みながらその無事を喜んだ。
「あ、ありがとう……」
たくましい筋肉の温かさに包まれながら、オディールは彼の優しさに触れ、顔を真っ赤にして頭を掻いた。
◇
ハムとチーズのサンドイッチをほお張りながら、三人は幽玄なロッソの景色を静かに眺めていた。頂上から吹き出す聖気はとどまることを知らず、まるで噴火のようにキラキラと輝きを放ちながら噴きあがり、一帯に降り注いでいる。三人もそのキラキラとした微粒子を浴び、疲労もすぐに回復していく。このロッソの聖気は大いなる大自然の恵みであり、セント・フローレスティーナの魅力の源泉だった。
この大いなる恵みを生かすも殺すもランドマークとなるこの建物で決まる。心に響く素敵な建物になれば自然と人も集まってくるのだ。
オディールはカメラマンのように指で四角をつくり、完成イメージを湖上に思い描く。それは夜通し何度も悩んで、寝返りを打ちつつベッドの中で作り上げた最高の自信作だった。
この絵画のような壮麗な湖に映える白亜の巨大建造物、想像するだけでワクワクが止まらなくなってくる。
「さぁやるぞーー! 午後はフロアだ!」
バッと立ち上がったオディールは、右手を突き上げ、心から湧き上がる興奮を声に乗せて放った。
「はいはい、頑張るわよ。オディールは落ちないこと、分かったわね?」
ミラーナは上目遣いでオディールをじっと見つめる。
「わ、分かったよぉ……」
オディールは口をとがらせ、渋い顔で頭をかいた。
◇
柱の上に梁を渡し、その上に白い御影石の板をかぶせていく。コツをつかんだミラーナは手際よく湖の上にフロアを広げていった。昨日の畑作業含めてスキルランクは相当に上がったようで、土魔法使いとしてはすでにかなりの熟練者となっている。ただ、敵を倒しているわけではないのでレベルは低く、あくまでもオディールとペアになる必要があるのだが。
数時間の作業で湖面上には直径二百メートルの御影石の円形ステージが出来上がる。
「おぉ、できましたね! 姐さんたち凄いです!」
ヴォルフラムは嬉しそうに広大なステージを見渡し、パチパチと手を叩いた。
「いやいや、ミラーナが凄いんだよ」
オディールはポンポンとミラーナの肩を叩く。
「ふふっ。自分にこんな才能があったなんて全然知らなかったわ」
ミラーナは、白い豪華な御影石のステージを見回し、満足そうに両手を広げる。彼女のブラウンの瞳は輝き、壮大な湖の上に広がる美しい建築物に深い感動を覚えていた。
孤児院出のメイドの人生など一生下働き、朝から晩まで馬車馬のように働いて王都から出ることもなく死んでいくのが普通だった。それが今、まるで絵画のような壮麗な湖で前代未聞の大仕事をしている。それはミラーナにとって生まれて初めて得た、自分にしかできないやりがいと充実感あふれる天職の実感だった。
「これもみんなオディのおかげね……。ありがとう……」
柔らかな微笑を浮かべたミラーナは、瞳を潤ませながらオディールの手を取る。
「ほ、ほら、僕たちいいペアだからさ」
照れ笑いをしながらオディールはミラーナの手を包んだ。
「旅に出て……、良かった……」
湖面を渡る風に黒髪をなびかせながらミラーナは顔を上げ、キラキラと聖気を噴き上げるロッソを眺めた。
「そ、そう? 良かった……」
オディールはホッとしながらミラーナを握る手に力を込めた。
「まぁ、明日は逆のことを言ってるかも……しれないけど?」
ちょっといたずらっぽい目でオディールをのぞきこむミラーナ。
「そ、そんな風にはさせないよ!」
「本当?」
「ホ、ホントだよ!」
オディールは顔を真っ赤にしながら力説した。
ミラーナは優しくうなずくと、そっとオディールを包み込むように抱きしめる。
オディールは一瞬戸惑いながらも、まぶたを下ろし、背中にそっと手を回した。
◇
「次はどうするんですか?」
ヴォルフラムはマグカップでお茶を飲みながら聞いた。
「二階を作ろう。Cの字型にこの円の上にフロアを重ねるんだ。ロッソが見えるようにロッソ方向が開いたフロアだね」
オディールはロッソを指さす。
「じゃあ中心部は広場になるのね。何だかカッコいいわ。三階建て?」
ミラーナは嬉しそうに聞いた。
「一番高いところは十階だよ」
「じゅ、十階!?」「へっ!?」
二人は目を丸くして驚く。王都でもほとんどが三階建て、一番高い教会の塔でも六階建てがせいぜいだったのだ。
「そのうちにもっと高いのも建てるよ!」
オディールはドヤ顔で言う。
「いやいや、階段登るの大変ですよ!」
ヴォルフラムは渋い顔で返す。
「そこはそのうちエレベーターっていう昇降機でなんとかなるんだな。まぁ、見ててよ」
オディールは嬉しそうに笑った。
は、はぁ……。
ヴォルフラムはミラーナと顔を見合わせて小首をかしげる。
「それから、ここは上に行くにしたがってフロアは細くなるから、こーんな感じで、すり鉢状のスタジアムみたいになるんだ」
オディールは両手を大きく動かしながら全身を使ってイメージを伝えた。
「え? ここは闘技場みたいになるんですか?」
「そうだね、ステージにも使えるようにしたいね。多分、二万人くらいは収容できると思うよ。それから上の方はロッソ側が少し湖の上に張り出して、優雅に口が開く感じにするよ」
「へぇ、優雅っていうのは良いわね」
「中心になる建物はやっぱり美しくないとだから。名前もみんなが集まる中心『セントラル』にしようかと思ってるんだ」
「あれ? 集まるって、ここは人が住む建物じゃないの?」
ミラーナは不思議そうに聞く。
「もちろん最初は住居だけど、人口が増えてきたらショッピングモールにするんだ。住居は今後ここを中心に湖上に放射状の道を作ってたくさん建てていくよ」
「ショッピングモール!?」「へっ!?」
ミラーナとヴォルフラムは想像以上のスケールに驚き、お互いの顔を見合わせる。広大なスタジアム兼ショッピングモールなど、王都にすらない。そんな物をまだ住民もいないこの地に建てるオディールの発想に二人は呆然として言葉を失った。
少し乱れた呼吸で、ミラーナはオディールを見つめた。
「もうバッチリだよ!」
浮かれたオディールは小鳥のように飛び跳ねながら梁の上を進み、楽しげにくるりと回る。しかし、その高さは五メートル。落ちたら笑いごとではない高さだった。
「オディ! 危ないわよ!」
ミラーナは眉をひそめて注意する。
「へへーん、大丈夫だって!」
逆にオディールは調子に乗ってクルクルッと踊った。しかし、安全を軽視する現場ネコには災いが降りかかると決まっている。
一陣の風が浮かれたオディールに襲いかかる。
「おっとっと……。うわぁぁぁ!」
バランスを崩して梁の縁でワタワタするオディール。
「きゃぁぁぁ!!」「うひぃ!」
ミラーナの心を刺すような叫びの中、オディールは真っ逆さまに落ちていった。
『えっ? マジ?』
オディールはスローモーションで動く世界を見つめ、終わりの瞬間がこんな形で訪れるとは夢にも思わず、ただ細く小さくなっていく梁を呆然と見つめるばかり……。
「どっせい!」
掛け声が響き、オディールが気がつくと、ヴォルフォラムの温かく頼もしい腕の中に包まれていた。
「姐さん、あぶないですよ」
ニコッと笑うヴォルフォラム。
オディールの危機を見越し、早くから心配して対策を練っていたヴォルフラムは、ただ優しく微笑みながらその無事を喜んだ。
「あ、ありがとう……」
たくましい筋肉の温かさに包まれながら、オディールは彼の優しさに触れ、顔を真っ赤にして頭を掻いた。
◇
ハムとチーズのサンドイッチをほお張りながら、三人は幽玄なロッソの景色を静かに眺めていた。頂上から吹き出す聖気はとどまることを知らず、まるで噴火のようにキラキラと輝きを放ちながら噴きあがり、一帯に降り注いでいる。三人もそのキラキラとした微粒子を浴び、疲労もすぐに回復していく。このロッソの聖気は大いなる大自然の恵みであり、セント・フローレスティーナの魅力の源泉だった。
この大いなる恵みを生かすも殺すもランドマークとなるこの建物で決まる。心に響く素敵な建物になれば自然と人も集まってくるのだ。
オディールはカメラマンのように指で四角をつくり、完成イメージを湖上に思い描く。それは夜通し何度も悩んで、寝返りを打ちつつベッドの中で作り上げた最高の自信作だった。
この絵画のような壮麗な湖に映える白亜の巨大建造物、想像するだけでワクワクが止まらなくなってくる。
「さぁやるぞーー! 午後はフロアだ!」
バッと立ち上がったオディールは、右手を突き上げ、心から湧き上がる興奮を声に乗せて放った。
「はいはい、頑張るわよ。オディールは落ちないこと、分かったわね?」
ミラーナは上目遣いでオディールをじっと見つめる。
「わ、分かったよぉ……」
オディールは口をとがらせ、渋い顔で頭をかいた。
◇
柱の上に梁を渡し、その上に白い御影石の板をかぶせていく。コツをつかんだミラーナは手際よく湖の上にフロアを広げていった。昨日の畑作業含めてスキルランクは相当に上がったようで、土魔法使いとしてはすでにかなりの熟練者となっている。ただ、敵を倒しているわけではないのでレベルは低く、あくまでもオディールとペアになる必要があるのだが。
数時間の作業で湖面上には直径二百メートルの御影石の円形ステージが出来上がる。
「おぉ、できましたね! 姐さんたち凄いです!」
ヴォルフラムは嬉しそうに広大なステージを見渡し、パチパチと手を叩いた。
「いやいや、ミラーナが凄いんだよ」
オディールはポンポンとミラーナの肩を叩く。
「ふふっ。自分にこんな才能があったなんて全然知らなかったわ」
ミラーナは、白い豪華な御影石のステージを見回し、満足そうに両手を広げる。彼女のブラウンの瞳は輝き、壮大な湖の上に広がる美しい建築物に深い感動を覚えていた。
孤児院出のメイドの人生など一生下働き、朝から晩まで馬車馬のように働いて王都から出ることもなく死んでいくのが普通だった。それが今、まるで絵画のような壮麗な湖で前代未聞の大仕事をしている。それはミラーナにとって生まれて初めて得た、自分にしかできないやりがいと充実感あふれる天職の実感だった。
「これもみんなオディのおかげね……。ありがとう……」
柔らかな微笑を浮かべたミラーナは、瞳を潤ませながらオディールの手を取る。
「ほ、ほら、僕たちいいペアだからさ」
照れ笑いをしながらオディールはミラーナの手を包んだ。
「旅に出て……、良かった……」
湖面を渡る風に黒髪をなびかせながらミラーナは顔を上げ、キラキラと聖気を噴き上げるロッソを眺めた。
「そ、そう? 良かった……」
オディールはホッとしながらミラーナを握る手に力を込めた。
「まぁ、明日は逆のことを言ってるかも……しれないけど?」
ちょっといたずらっぽい目でオディールをのぞきこむミラーナ。
「そ、そんな風にはさせないよ!」
「本当?」
「ホ、ホントだよ!」
オディールは顔を真っ赤にしながら力説した。
ミラーナは優しくうなずくと、そっとオディールを包み込むように抱きしめる。
オディールは一瞬戸惑いながらも、まぶたを下ろし、背中にそっと手を回した。
◇
「次はどうするんですか?」
ヴォルフラムはマグカップでお茶を飲みながら聞いた。
「二階を作ろう。Cの字型にこの円の上にフロアを重ねるんだ。ロッソが見えるようにロッソ方向が開いたフロアだね」
オディールはロッソを指さす。
「じゃあ中心部は広場になるのね。何だかカッコいいわ。三階建て?」
ミラーナは嬉しそうに聞いた。
「一番高いところは十階だよ」
「じゅ、十階!?」「へっ!?」
二人は目を丸くして驚く。王都でもほとんどが三階建て、一番高い教会の塔でも六階建てがせいぜいだったのだ。
「そのうちにもっと高いのも建てるよ!」
オディールはドヤ顔で言う。
「いやいや、階段登るの大変ですよ!」
ヴォルフラムは渋い顔で返す。
「そこはそのうちエレベーターっていう昇降機でなんとかなるんだな。まぁ、見ててよ」
オディールは嬉しそうに笑った。
は、はぁ……。
ヴォルフラムはミラーナと顔を見合わせて小首をかしげる。
「それから、ここは上に行くにしたがってフロアは細くなるから、こーんな感じで、すり鉢状のスタジアムみたいになるんだ」
オディールは両手を大きく動かしながら全身を使ってイメージを伝えた。
「え? ここは闘技場みたいになるんですか?」
「そうだね、ステージにも使えるようにしたいね。多分、二万人くらいは収容できると思うよ。それから上の方はロッソ側が少し湖の上に張り出して、優雅に口が開く感じにするよ」
「へぇ、優雅っていうのは良いわね」
「中心になる建物はやっぱり美しくないとだから。名前もみんなが集まる中心『セントラル』にしようかと思ってるんだ」
「あれ? 集まるって、ここは人が住む建物じゃないの?」
ミラーナは不思議そうに聞く。
「もちろん最初は住居だけど、人口が増えてきたらショッピングモールにするんだ。住居は今後ここを中心に湖上に放射状の道を作ってたくさん建てていくよ」
「ショッピングモール!?」「へっ!?」
ミラーナとヴォルフラムは想像以上のスケールに驚き、お互いの顔を見合わせる。広大なスタジアム兼ショッピングモールなど、王都にすらない。そんな物をまだ住民もいないこの地に建てるオディールの発想に二人は呆然として言葉を失った。