【お天気】スキルを馬鹿にされ、追放された公爵令嬢。不毛の砂漠に雨を降らし、美少女メイドと共に甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い~
5. 【お天気】の猛威
王子は鬼のような形相を浮かべ、ブルブルと震えると、思いきりオディールの頬を平手打ちにした。パーン! と、いう痛々しい音が静まり返るボールルームに響き渡る。
きゃぁ!
たまらず倒れ込むオディール。
「き、貴様は追放だ! 追放処分にしてやる!!」
わめきたてる王子に観衆はどよめいた。
オディールは叩かれたほほを押さえながら呆然とする。
頭が悪く女癖の悪い暴力王子、そんな王子と政略結婚が仕組まれる上流階級の世界、全てにウンザリしたオディールはもうどうでもよくなってしまった。
よろよろと立ち上がると、肩をすくめ、オディールは出口へと歩く。ザワつく来客は眉をひそめながらうつろな眼のオディールに道を譲った。
婚約破棄を願ってはいたものの、さすがにここまでやられると凹まざるを得ない。リンゴ酒をぶっかけたのは失敗だったようにも思ったが、伸び伸びと心のままに生きると決めたのだ。侮辱には対抗しないと心が死んでしまう。
オディールはギィとドアを開け、静かに帰路についた。
◇
外に出てふらふらと石畳の道を歩いていくと、ボールルームからダンスの生演奏が流れてくる。策略と謀略が織り成す社交界に鳴り響く美しい音色。見れば王子はニヤニヤしながらアマーリアと踊っている。
ギリッと奥歯を鳴らしたオディールだったが、ふと思い立ってニヤリといたずらっ子の笑みを浮かべた。
王子がバカにした【お天気】スキル。その真価はどんなものだか、せっかくだから試してやろうと考えたのだ。
何度か深呼吸をして精神統一し、雷をイメージしたオディールの頭に自然と祭詞が浮かびあがる。その初めての神秘的な体験に少し驚いたオディールだったが、ニヤッと笑うと手のひらを夜空へと掲げた。
「【雷神よ、その猛き闘志を解き放て】」
直後、膨大な魔力がオディールの身体から巻き上がり、一直線に天を目指す。
もこもこと湧きおこる暗雲……。
刹那、強烈な閃光が天と地をまばゆく埋め尽くし、ズンッ!という重厚な地響きとともに激烈な雷鳴が王都を揺るがせる。超特大の雷が、まるで天からの怒りを表すかのように、王宮に直撃したのだ。
稲妻は屋根瓦を吹き飛ばし、魔法のランプを消しさる。
「キャーーーー!」「うわぁぁ!」
真っ暗になったボールルームは大騒ぎである。
WOW!
オディールは両手を開き、目を真ん丸に見開いて、圧倒的な威力に大喜び。
さすが女神に特別に選んでもらったスキル、とんでもない威力である。
すると、王子の叫び声が聞こえてくる。
「ひぃぃぃ! 恐いよぉ! 誰か明かりつけてよぉ! 早くぅ!」
あまりにも間抜けな狼狽っぷりにオディールは思わず吹き出してしまう。
「バーカ! ざまあみろ! きゃははは!」
オディールは楽しそうにピョンと跳びはねた。
天候を操るということは大自然の力を操ること、そのパワーは計り知れない。オディールはここに貴族社会にしがみつく必要もない、無限の可能性を感じた。
このチートスキルを使って自分らしい人生を切り開くのだ、とオディールは強く決意し、昇り始めたオレンジ色の満月に向けて腕をグッと伸ばした。
◇
「お嬢様、公爵様がお呼びです」
翌日、ミラーナに声をかけられたオディールは、運命の時がやってきたと大きく息をついた。
執務室に入ると公爵はものすごい形相でオディールをにらみつけてくる。
「お父様、お呼びですか?」
平静を装いながら、ワンピースのすそをもって丁寧に挨拶をするオディール。
「お前、殿下に酒をぶっかけたそうだな?」
ドスの効いた声で問いただす公爵。
「あの男が浮気して、冤罪押し付けて、私の身体をなじったので公爵家の誇りを守るため対抗措置に出ただけですわ」
しれっと言い返すオディール。
「何が誇りだ! 正式に婚約破棄の連絡が来てしまったじゃないか! これですべての計画が台無しだ、どうしてくれる!」
公爵は届いたばかりの書類をバンと机に叩きつけて怒った。
「それはお父様の勝手な計画ですわ。わたくしは一度も賛同したことなどなかったですもの」
毅然とした態度で言い放つオディール。
「な、なんだと……」
公爵はわなわなと震えながら鬼のような形相でオディールをにらんだ。
「ご不満なら、わたくしを辺境の公爵領に飛ばしてみてはいかがですか?」
オディールはニコッと笑う。
ガン! 公爵は机を激しく殴る。鍛え抜かれた体躯から繰り出されたこぶしは机をきしませ、倒れたカップからお茶が飛び散った。
「追放だ……」
「え……?」
「追放だ! もう、お前は公爵家の人間ではない! 今すぐこの屋敷から出ていけ!」
激高した公爵は、声を震わせ怒鳴り散らした。
「よ、よろしいのですか? わたくしの【お天気】スキルは神の力に匹敵……」
「何が神の力だ、そんなもの要らん! とっとと出ていけーーーー!!」
公爵は怒りに任せて紅茶カップを弾き飛ばし、床で砕ける鮮やかな音が部屋に響きわたる。
こうしてオディールは全ての地位を剥奪され、何の後ろ盾もないただの平民へと転落してしまったのだった。
きゃぁ!
たまらず倒れ込むオディール。
「き、貴様は追放だ! 追放処分にしてやる!!」
わめきたてる王子に観衆はどよめいた。
オディールは叩かれたほほを押さえながら呆然とする。
頭が悪く女癖の悪い暴力王子、そんな王子と政略結婚が仕組まれる上流階級の世界、全てにウンザリしたオディールはもうどうでもよくなってしまった。
よろよろと立ち上がると、肩をすくめ、オディールは出口へと歩く。ザワつく来客は眉をひそめながらうつろな眼のオディールに道を譲った。
婚約破棄を願ってはいたものの、さすがにここまでやられると凹まざるを得ない。リンゴ酒をぶっかけたのは失敗だったようにも思ったが、伸び伸びと心のままに生きると決めたのだ。侮辱には対抗しないと心が死んでしまう。
オディールはギィとドアを開け、静かに帰路についた。
◇
外に出てふらふらと石畳の道を歩いていくと、ボールルームからダンスの生演奏が流れてくる。策略と謀略が織り成す社交界に鳴り響く美しい音色。見れば王子はニヤニヤしながらアマーリアと踊っている。
ギリッと奥歯を鳴らしたオディールだったが、ふと思い立ってニヤリといたずらっ子の笑みを浮かべた。
王子がバカにした【お天気】スキル。その真価はどんなものだか、せっかくだから試してやろうと考えたのだ。
何度か深呼吸をして精神統一し、雷をイメージしたオディールの頭に自然と祭詞が浮かびあがる。その初めての神秘的な体験に少し驚いたオディールだったが、ニヤッと笑うと手のひらを夜空へと掲げた。
「【雷神よ、その猛き闘志を解き放て】」
直後、膨大な魔力がオディールの身体から巻き上がり、一直線に天を目指す。
もこもこと湧きおこる暗雲……。
刹那、強烈な閃光が天と地をまばゆく埋め尽くし、ズンッ!という重厚な地響きとともに激烈な雷鳴が王都を揺るがせる。超特大の雷が、まるで天からの怒りを表すかのように、王宮に直撃したのだ。
稲妻は屋根瓦を吹き飛ばし、魔法のランプを消しさる。
「キャーーーー!」「うわぁぁ!」
真っ暗になったボールルームは大騒ぎである。
WOW!
オディールは両手を開き、目を真ん丸に見開いて、圧倒的な威力に大喜び。
さすが女神に特別に選んでもらったスキル、とんでもない威力である。
すると、王子の叫び声が聞こえてくる。
「ひぃぃぃ! 恐いよぉ! 誰か明かりつけてよぉ! 早くぅ!」
あまりにも間抜けな狼狽っぷりにオディールは思わず吹き出してしまう。
「バーカ! ざまあみろ! きゃははは!」
オディールは楽しそうにピョンと跳びはねた。
天候を操るということは大自然の力を操ること、そのパワーは計り知れない。オディールはここに貴族社会にしがみつく必要もない、無限の可能性を感じた。
このチートスキルを使って自分らしい人生を切り開くのだ、とオディールは強く決意し、昇り始めたオレンジ色の満月に向けて腕をグッと伸ばした。
◇
「お嬢様、公爵様がお呼びです」
翌日、ミラーナに声をかけられたオディールは、運命の時がやってきたと大きく息をついた。
執務室に入ると公爵はものすごい形相でオディールをにらみつけてくる。
「お父様、お呼びですか?」
平静を装いながら、ワンピースのすそをもって丁寧に挨拶をするオディール。
「お前、殿下に酒をぶっかけたそうだな?」
ドスの効いた声で問いただす公爵。
「あの男が浮気して、冤罪押し付けて、私の身体をなじったので公爵家の誇りを守るため対抗措置に出ただけですわ」
しれっと言い返すオディール。
「何が誇りだ! 正式に婚約破棄の連絡が来てしまったじゃないか! これですべての計画が台無しだ、どうしてくれる!」
公爵は届いたばかりの書類をバンと机に叩きつけて怒った。
「それはお父様の勝手な計画ですわ。わたくしは一度も賛同したことなどなかったですもの」
毅然とした態度で言い放つオディール。
「な、なんだと……」
公爵はわなわなと震えながら鬼のような形相でオディールをにらんだ。
「ご不満なら、わたくしを辺境の公爵領に飛ばしてみてはいかがですか?」
オディールはニコッと笑う。
ガン! 公爵は机を激しく殴る。鍛え抜かれた体躯から繰り出されたこぶしは机をきしませ、倒れたカップからお茶が飛び散った。
「追放だ……」
「え……?」
「追放だ! もう、お前は公爵家の人間ではない! 今すぐこの屋敷から出ていけ!」
激高した公爵は、声を震わせ怒鳴り散らした。
「よ、よろしいのですか? わたくしの【お天気】スキルは神の力に匹敵……」
「何が神の力だ、そんなもの要らん! とっとと出ていけーーーー!!」
公爵は怒りに任せて紅茶カップを弾き飛ばし、床で砕ける鮮やかな音が部屋に響きわたる。
こうしてオディールは全ての地位を剥奪され、何の後ろ盾もないただの平民へと転落してしまったのだった。