【お天気】スキルを馬鹿にされ、追放された公爵令嬢。不毛の砂漠に雨を降らし、美少女メイドと共に甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い~
55. これは戦争だよ?
セント・フローレスティーナに戻り、オディールとミラーナは表面的にはいつもと変わらない暮らしを送っていた。ただ、ミラーナは安堵しつつも将来のことを考えなければと、物思いにふけることが多くなる。オディールの未来、自分の未来、そして二人の未来―それらはまだ十七歳の彼女には深く、難解な問題であった。
一週間ほどして――――。
二人はフローレスナイトに乗って、新しい武器【ロックライフル】を試していた。フローレスナイトが巨大なライフルを構え、ミラーナが土魔法でライフルから岩の弾を高速に射出するというものである。
「よーし、フローレスナイト! あそこの岩に照準合わせて!」
グォォ!
フローレスナイトは全長十メートルはあろうかという巨大なライフルの砲身を岩に向けた。それはライフルというよりはもはや大砲だった。
「ファイヤー!」
オディールは調子に乗ってミラーナの肩をパンパンと叩く。
「ほ、本当に撃つわよ?」
ミラーナは攻撃魔法など使ったことが無いのであまり乗り気ではない。
「OK! バンバン行っちゃってー!」
気軽に言うオディールをジト目で見たミラーナは、大きくため息をつき、おっかなびっくり土弾を唱えた。
オディールから流れ込んだ膨大な魔力は、ミラーナで土弾へと変換され、フローレスナイトを通じてライフル内で実体化される。
ロックライフルが黄金色に輝いた直後、ズン! とコクピットが激しく揺れ、ターゲットの岩が火を吹いて粉々に吹き飛んだ。
ズガーーン!
辺りに爆発音が響き渡り、爆煙がもうもうと上がる。
「うっひゃーー!」
オディールは大喜び。しかし、ミラーナはあまりの破壊力に青ざめてしまう。
「い、一体こんなの、どこで使うのよ……」
「備えあれば憂いなし。フローレスナイトは今やセント・フローレスティーナの守護神だからね、武器ぐらい持っておかないと」
オディールは上機嫌でミラーナの肩を揉んでいたわった。
水筒を手に取り、のどを潤すとふぅとため息をつくミラーナ。花の都を作るという話がこんな大砲作りにまで発展していってしまうことには、どうしても抵抗を感じてしまうのだった。
と、その時、遠くの方に赤い筋が立ち上っているのが目に入る。
「え? あれは何かしら?」
ミラーナが遠くを指さした。
「へ……? ……。て、敵襲!?」
オディールは目を真ん丸に見開き、思わず立ち上がる。それは侵入者を知らせる狼煙だった。
狼煙の方向は西、その先は数百キロ延々と砂漠であり、川も何もない。明らかに異常な侵入者だった。
オディールは事態の深刻さにキュッと口を結びしばらく狼煙をにらむ。
「ど、どうしよう……」
ミラーナがオディールの腕をつかんだ。ミラーナの恐怖がかすかな震えとなってオディールに伝わってくる。
オディールはそっとミラーナの震える手に手を重ねると、大きく息をついた。
「大丈夫……。僕に任せて」
モコモコと湧き上がってくる不安をオディールはギュッと押しつぶし、狼煙に厳しい視線を向け、決意を込めて指さし叫ぶ。
「フローレスナイト、GO!」
重苦しい雰囲気の中、二人は警備やぐらを目指した。
◇
やぐらまでたどり着くと、緑の卵型ゴーレム【ピィ太郎】が砂漠を指さしている。その先には砂煙が上がっているのが見えた。王都の方からやってくる大部隊。それは威嚇行為とかそういう生易しいものでは無い殺意を感じる襲来だった。
「【第一種戦闘配置】の狼煙を焚いて!」
ピュィッ!
オディールはいきなりやってきた戦争にブルっと武者震いすると、もうもうと迫りくる砂煙を鋭い視線でにらんだ。
◇
やがて敵の姿が見えてくる。それは魔道トラックだった。魔塔が開発したという魔力で走る最新鋭のトラック、それが五、六台砂煙を上げながらセント・フローレスティーナ目指して爆走してくる。
「ミラーナ、ロックライフルの用意を……」
「えっ! そ、そんなこと、人が死んじゃうわ!」
「何を言ってるの? やらねばやられるんだよ? これは戦争だよ?」
ぬるいことを言っているミラーナの瞳を、イライラしながらのぞきこむオディール。
「で、でも……」
自らの魔法で人を殺すということは、ミラーナにはとても耐えられない。ミラーナの目には涙が浮かんでいる。
オディールはハッとして、戦争に巻き込んでしまった申し訳なさに胸がキュッと痛む。戦闘要員でもない彼女に砲撃を頼むこと自体筋違いだったのだ。だが、【お天気】スキルでは爆走してくる敵への威嚇は難しい。
「ごめん、僕も殺したいわけじゃないから大丈夫。あくまで威嚇だからさ。お願い」
オディールは手を合わせて頼み込む。
「い、威嚇なら……」
ミラーナは目をギュッとつぶり、何度も大きく息をついた。
「ありがとう……。よし、フローレスナイト! 奴らの鼻先に威嚇射撃だ!」
ガウッ!
フローレスナイトはロックライフルの照準を合わせる。
「ファイヤー!」
刹那、魔道トラックの手前が激しい閃光を放ちながら大爆発を起こす。
ズン!
大穴が開き、もうもうと上がる爆煙。
しかし、魔道トラックは止まらない。巧みに穴をよけ、突っ込んでくる。余程覚悟を決めた手練れということだろう。オディールの額にツーっと冷汗が流れた。
「くっ! もう少しぎりぎりを狙って連射だ!」
グッ!
「ファイヤー! ファイヤー! ファイヤー! ファイヤー!」
次々と火を吹くロックライフル。
撃つたびに激しい衝撃でフローレスナイトは揺れ、二人は手すりにしがみつく。
岩弾は次々とトラックの手前に着弾し、爆煙が次々と上がっていった。
さすがにこれ以上は無理だと悟ったのか、トラックは次々と停車する。
目の前に展開する未知の攻撃部隊。その殺気を肌に感じ、さすがのオディールも手に汗を握った。これから始まる命の奪い合い、果たしてどんな結末になるのか全く予断を許さない。しかし何があってもミラーナとセント・フローレスティーナだけは守らねばならなかった。
オディールはガバっと立ち上がると、キャノピーを開け、大声で叫ぶ。
「ここはセント・フローレスティーナの領土である! 貴様らの行為は軍事侵攻であり、ゆるされない。次は威嚇ではないぞ。死にたくなければ立ち去れ!」
パラパラと小石が地面に降り注ぐ中、オディールの叫びが砂漠に響き渡った。
一週間ほどして――――。
二人はフローレスナイトに乗って、新しい武器【ロックライフル】を試していた。フローレスナイトが巨大なライフルを構え、ミラーナが土魔法でライフルから岩の弾を高速に射出するというものである。
「よーし、フローレスナイト! あそこの岩に照準合わせて!」
グォォ!
フローレスナイトは全長十メートルはあろうかという巨大なライフルの砲身を岩に向けた。それはライフルというよりはもはや大砲だった。
「ファイヤー!」
オディールは調子に乗ってミラーナの肩をパンパンと叩く。
「ほ、本当に撃つわよ?」
ミラーナは攻撃魔法など使ったことが無いのであまり乗り気ではない。
「OK! バンバン行っちゃってー!」
気軽に言うオディールをジト目で見たミラーナは、大きくため息をつき、おっかなびっくり土弾を唱えた。
オディールから流れ込んだ膨大な魔力は、ミラーナで土弾へと変換され、フローレスナイトを通じてライフル内で実体化される。
ロックライフルが黄金色に輝いた直後、ズン! とコクピットが激しく揺れ、ターゲットの岩が火を吹いて粉々に吹き飛んだ。
ズガーーン!
辺りに爆発音が響き渡り、爆煙がもうもうと上がる。
「うっひゃーー!」
オディールは大喜び。しかし、ミラーナはあまりの破壊力に青ざめてしまう。
「い、一体こんなの、どこで使うのよ……」
「備えあれば憂いなし。フローレスナイトは今やセント・フローレスティーナの守護神だからね、武器ぐらい持っておかないと」
オディールは上機嫌でミラーナの肩を揉んでいたわった。
水筒を手に取り、のどを潤すとふぅとため息をつくミラーナ。花の都を作るという話がこんな大砲作りにまで発展していってしまうことには、どうしても抵抗を感じてしまうのだった。
と、その時、遠くの方に赤い筋が立ち上っているのが目に入る。
「え? あれは何かしら?」
ミラーナが遠くを指さした。
「へ……? ……。て、敵襲!?」
オディールは目を真ん丸に見開き、思わず立ち上がる。それは侵入者を知らせる狼煙だった。
狼煙の方向は西、その先は数百キロ延々と砂漠であり、川も何もない。明らかに異常な侵入者だった。
オディールは事態の深刻さにキュッと口を結びしばらく狼煙をにらむ。
「ど、どうしよう……」
ミラーナがオディールの腕をつかんだ。ミラーナの恐怖がかすかな震えとなってオディールに伝わってくる。
オディールはそっとミラーナの震える手に手を重ねると、大きく息をついた。
「大丈夫……。僕に任せて」
モコモコと湧き上がってくる不安をオディールはギュッと押しつぶし、狼煙に厳しい視線を向け、決意を込めて指さし叫ぶ。
「フローレスナイト、GO!」
重苦しい雰囲気の中、二人は警備やぐらを目指した。
◇
やぐらまでたどり着くと、緑の卵型ゴーレム【ピィ太郎】が砂漠を指さしている。その先には砂煙が上がっているのが見えた。王都の方からやってくる大部隊。それは威嚇行為とかそういう生易しいものでは無い殺意を感じる襲来だった。
「【第一種戦闘配置】の狼煙を焚いて!」
ピュィッ!
オディールはいきなりやってきた戦争にブルっと武者震いすると、もうもうと迫りくる砂煙を鋭い視線でにらんだ。
◇
やがて敵の姿が見えてくる。それは魔道トラックだった。魔塔が開発したという魔力で走る最新鋭のトラック、それが五、六台砂煙を上げながらセント・フローレスティーナ目指して爆走してくる。
「ミラーナ、ロックライフルの用意を……」
「えっ! そ、そんなこと、人が死んじゃうわ!」
「何を言ってるの? やらねばやられるんだよ? これは戦争だよ?」
ぬるいことを言っているミラーナの瞳を、イライラしながらのぞきこむオディール。
「で、でも……」
自らの魔法で人を殺すということは、ミラーナにはとても耐えられない。ミラーナの目には涙が浮かんでいる。
オディールはハッとして、戦争に巻き込んでしまった申し訳なさに胸がキュッと痛む。戦闘要員でもない彼女に砲撃を頼むこと自体筋違いだったのだ。だが、【お天気】スキルでは爆走してくる敵への威嚇は難しい。
「ごめん、僕も殺したいわけじゃないから大丈夫。あくまで威嚇だからさ。お願い」
オディールは手を合わせて頼み込む。
「い、威嚇なら……」
ミラーナは目をギュッとつぶり、何度も大きく息をついた。
「ありがとう……。よし、フローレスナイト! 奴らの鼻先に威嚇射撃だ!」
ガウッ!
フローレスナイトはロックライフルの照準を合わせる。
「ファイヤー!」
刹那、魔道トラックの手前が激しい閃光を放ちながら大爆発を起こす。
ズン!
大穴が開き、もうもうと上がる爆煙。
しかし、魔道トラックは止まらない。巧みに穴をよけ、突っ込んでくる。余程覚悟を決めた手練れということだろう。オディールの額にツーっと冷汗が流れた。
「くっ! もう少しぎりぎりを狙って連射だ!」
グッ!
「ファイヤー! ファイヤー! ファイヤー! ファイヤー!」
次々と火を吹くロックライフル。
撃つたびに激しい衝撃でフローレスナイトは揺れ、二人は手すりにしがみつく。
岩弾は次々とトラックの手前に着弾し、爆煙が次々と上がっていった。
さすがにこれ以上は無理だと悟ったのか、トラックは次々と停車する。
目の前に展開する未知の攻撃部隊。その殺気を肌に感じ、さすがのオディールも手に汗を握った。これから始まる命の奪い合い、果たしてどんな結末になるのか全く予断を許さない。しかし何があってもミラーナとセント・フローレスティーナだけは守らねばならなかった。
オディールはガバっと立ち上がると、キャノピーを開け、大声で叫ぶ。
「ここはセント・フローレスティーナの領土である! 貴様らの行為は軍事侵攻であり、ゆるされない。次は威嚇ではないぞ。死にたくなければ立ち去れ!」
パラパラと小石が地面に降り注ぐ中、オディールの叫びが砂漠に響き渡った。