【お天気】スキルを馬鹿にされ、追放された公爵令嬢。不毛の砂漠に雨を降らし、美少女メイドと共に甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い~
65. 大聖堂突入
レヴィアはオディールの腕を力強くつかむと、燃えるような真紅の瞳でオディールをにらみつける。
「落ち着け! お主が取り乱してどうする!」
「だ、だって……。ミ、ミラーナが……。ミラーナが居なくなったらもう僕は生きていけない……」
パァン!
レヴィアはオディールを平手打ちにした。
「街崩壊の危機に、領主が何をぬるいこと言っとる!」
ヒックヒックとしゃくりあげながら、オディールは真っ赤な泣きはらした目でレヴィアを見上げる。
「あー! もう! 住民の避難はケーニッヒに任せるぞ! ええか?」
レヴィアは困り切った顔で首を振り、大きくため息をついた。
ケーニッヒはじっとオディールを見つめ、すっとひざまずくとオディールの手を握る。
「オディール殿、住民の安全はそれがしに任せてください」
オディールは力なくうなずいた。
「崩壊する前に全員避難させるぞ! 動けるものはついてこい!」
地震のように揺れる建物がいつまで持つか分からない。ケーニッヒは自警団を何人か連れて飛び出して行った。
◇
オディールは沈痛な面持ちで、まるでろう人形のように生気を失ったミラーナを眺める。今、自分に何ができるだろう? 毒は取り除けない、となると、どうしたらいいか……。
「くぅぅぅ、このままじゃ死んじゃうよぉ……。死んだら……。……。死ぬ……?」
ここでオディールは自分も一度死んだことを思い出す。死んでもまだ終わりではなかったのだ。
と、なると……。
オディールはレヴィアの手を取り、碧い瞳を見開いて言った。
「め、女神様だ! 女神様に会わせて!」
たとえ死んでも女神様なら助けられる。女神様へ直談判することが唯一の解決策だろうと気が付いたのだ。
だが、レヴィアは顔をしかめ、視線を落とす。
「女神様は医者じゃない。助けてくれるとは限らんぞ? それに、女神様には連絡などつかん。我もすでにメッセージは送ってはおるんじゃが……、お忙しいので読まれることはないじゃろう。女神様はいつも気まぐれにふらっとやってくるだけなんじゃ……」
「次はいつ来そう?」
「前回は三十五年前なんじゃ……」
オディールは頭を抱える。そんな気まぐれを待っていられないのだ。
「誰か……、女神様に連絡がつく人……。あっ! きょ、教皇……?」
「えー……、教皇は……」
レヴィアは渋い顔で首を振る。
「いや、僕は大聖堂の神託の儀で女神様の声を聞いたんだよ。教皇なら何か知ってるはずさ!」
「うーん……」
腕組みをしながら首をかしげるレヴィア。
「いいから、大聖堂へ飛んでよ! 他に策なんてないじゃないか!」
オディールはガシッとレヴィアの腕をつかむと、感情にかられて悲痛な叫びをあげる。
レヴィアは溜息をもらし、オディールの切実な瞳にちらりと目を向けるとそっと頷いた。
「じゃが、命尽きてミラーナの魂が命のスープに溶けてしまったら、女神様でも助けられんぞ」
「えっ!? そ、そんな……」
「急ぐしかない。いいから乗れ!」
レヴィアは月夜に軽く飛び上がると衝撃音を立てて荘厳なドラゴンに変身し、オディールの前に巨大な頭を降ろした。
◇
ミラーナを医療班に託し、レヴィアはオディールを乗せ、全速力で王都へと飛ぶ。
月光が砂漠を静かに照らし出す中、いつもよりはるかに高い高度を超音速で飛び続けるレヴィア。シールドである程度守られてはいるものの厳寒と低酸素で限界ギリギリの中を必死に鱗の棘にしがみつくオディール。ミラーナの命は聖水によってかろうじて繋がれているが、いつまで持つかは分からない。緊迫した時間との闘いなのだ。
山脈を超え、徐々に大きく見えてくる王都。久しぶりに見る石造りの荘厳な街並みは夜の静寂に沈み、明かりもまばらである。レヴィアは少しずつ高度を落としながら大聖堂を目指した。
「教皇の部屋はどこじゃろうな? 昔は大聖堂の隣のタワーの最上階じゃったけどなぁ……」
大聖堂上空までたどり着いたレヴィアは、降下しながら巨大な翼をバサッバサッと大きく羽ばたかせる。
「あそこだね! 突っ込もう!」
オディールは冷え切った身体に震えながら、覚悟を決めた目で叫んだ。
「突っ込むってお主……」
「時間がないんだ! 僕を窓に放り投げて!」
「……。分かった」
オディールの身体を大きな前足で包み込むようにつかむと、レヴィアは翼を広げ、タワーの最上階の窓に向けて静かに滑るように迫った。
「『いっせーのせ』で放るぞ!」
「ちゃんと窓狙ってよ!」
「外したら勘弁な!」
「くぅぅ………。信じてる!」
ぐんぐんと近づいてくるタワーにオディールはゴクリとのどを鳴らす。突入に失敗すればそのまま墜落して即死だ。しかし、死の淵をさまようミラーナのことを思えば大したことではないのだと、オディールは自分を奮い立たせる。
「いっせーのー……」
タワーの直前まで滑空しながら慎重に迫ると、レヴィアは全力で羽ばたいて上空へと進路を変え、その隙にオディールの身体を放り投げる。
「せっ!」
月の光に照らされながら、オディールの身体はそのまま最上階の窓へと弧を描く。それはオディールの切なる願いを賭けた月夜のアクロバットだった。
リュックを盾にしてガラス窓へと飛んだオディールは、盛大なガラスの割れる音と共に部屋へと突っ込んでいく。ガラスが飛び散る音が響く中、オディールはあちこちに傷を負いながらも何とか侵入に成功したのだった。
「落ち着け! お主が取り乱してどうする!」
「だ、だって……。ミ、ミラーナが……。ミラーナが居なくなったらもう僕は生きていけない……」
パァン!
レヴィアはオディールを平手打ちにした。
「街崩壊の危機に、領主が何をぬるいこと言っとる!」
ヒックヒックとしゃくりあげながら、オディールは真っ赤な泣きはらした目でレヴィアを見上げる。
「あー! もう! 住民の避難はケーニッヒに任せるぞ! ええか?」
レヴィアは困り切った顔で首を振り、大きくため息をついた。
ケーニッヒはじっとオディールを見つめ、すっとひざまずくとオディールの手を握る。
「オディール殿、住民の安全はそれがしに任せてください」
オディールは力なくうなずいた。
「崩壊する前に全員避難させるぞ! 動けるものはついてこい!」
地震のように揺れる建物がいつまで持つか分からない。ケーニッヒは自警団を何人か連れて飛び出して行った。
◇
オディールは沈痛な面持ちで、まるでろう人形のように生気を失ったミラーナを眺める。今、自分に何ができるだろう? 毒は取り除けない、となると、どうしたらいいか……。
「くぅぅぅ、このままじゃ死んじゃうよぉ……。死んだら……。……。死ぬ……?」
ここでオディールは自分も一度死んだことを思い出す。死んでもまだ終わりではなかったのだ。
と、なると……。
オディールはレヴィアの手を取り、碧い瞳を見開いて言った。
「め、女神様だ! 女神様に会わせて!」
たとえ死んでも女神様なら助けられる。女神様へ直談判することが唯一の解決策だろうと気が付いたのだ。
だが、レヴィアは顔をしかめ、視線を落とす。
「女神様は医者じゃない。助けてくれるとは限らんぞ? それに、女神様には連絡などつかん。我もすでにメッセージは送ってはおるんじゃが……、お忙しいので読まれることはないじゃろう。女神様はいつも気まぐれにふらっとやってくるだけなんじゃ……」
「次はいつ来そう?」
「前回は三十五年前なんじゃ……」
オディールは頭を抱える。そんな気まぐれを待っていられないのだ。
「誰か……、女神様に連絡がつく人……。あっ! きょ、教皇……?」
「えー……、教皇は……」
レヴィアは渋い顔で首を振る。
「いや、僕は大聖堂の神託の儀で女神様の声を聞いたんだよ。教皇なら何か知ってるはずさ!」
「うーん……」
腕組みをしながら首をかしげるレヴィア。
「いいから、大聖堂へ飛んでよ! 他に策なんてないじゃないか!」
オディールはガシッとレヴィアの腕をつかむと、感情にかられて悲痛な叫びをあげる。
レヴィアは溜息をもらし、オディールの切実な瞳にちらりと目を向けるとそっと頷いた。
「じゃが、命尽きてミラーナの魂が命のスープに溶けてしまったら、女神様でも助けられんぞ」
「えっ!? そ、そんな……」
「急ぐしかない。いいから乗れ!」
レヴィアは月夜に軽く飛び上がると衝撃音を立てて荘厳なドラゴンに変身し、オディールの前に巨大な頭を降ろした。
◇
ミラーナを医療班に託し、レヴィアはオディールを乗せ、全速力で王都へと飛ぶ。
月光が砂漠を静かに照らし出す中、いつもよりはるかに高い高度を超音速で飛び続けるレヴィア。シールドである程度守られてはいるものの厳寒と低酸素で限界ギリギリの中を必死に鱗の棘にしがみつくオディール。ミラーナの命は聖水によってかろうじて繋がれているが、いつまで持つかは分からない。緊迫した時間との闘いなのだ。
山脈を超え、徐々に大きく見えてくる王都。久しぶりに見る石造りの荘厳な街並みは夜の静寂に沈み、明かりもまばらである。レヴィアは少しずつ高度を落としながら大聖堂を目指した。
「教皇の部屋はどこじゃろうな? 昔は大聖堂の隣のタワーの最上階じゃったけどなぁ……」
大聖堂上空までたどり着いたレヴィアは、降下しながら巨大な翼をバサッバサッと大きく羽ばたかせる。
「あそこだね! 突っ込もう!」
オディールは冷え切った身体に震えながら、覚悟を決めた目で叫んだ。
「突っ込むってお主……」
「時間がないんだ! 僕を窓に放り投げて!」
「……。分かった」
オディールの身体を大きな前足で包み込むようにつかむと、レヴィアは翼を広げ、タワーの最上階の窓に向けて静かに滑るように迫った。
「『いっせーのせ』で放るぞ!」
「ちゃんと窓狙ってよ!」
「外したら勘弁な!」
「くぅぅ………。信じてる!」
ぐんぐんと近づいてくるタワーにオディールはゴクリとのどを鳴らす。突入に失敗すればそのまま墜落して即死だ。しかし、死の淵をさまようミラーナのことを思えば大したことではないのだと、オディールは自分を奮い立たせる。
「いっせーのー……」
タワーの直前まで滑空しながら慎重に迫ると、レヴィアは全力で羽ばたいて上空へと進路を変え、その隙にオディールの身体を放り投げる。
「せっ!」
月の光に照らされながら、オディールの身体はそのまま最上階の窓へと弧を描く。それはオディールの切なる願いを賭けた月夜のアクロバットだった。
リュックを盾にしてガラス窓へと飛んだオディールは、盛大なガラスの割れる音と共に部屋へと突っ込んでいく。ガラスが飛び散る音が響く中、オディールはあちこちに傷を負いながらも何とか侵入に成功したのだった。