【お天気】スキルを馬鹿にされ、追放された公爵令嬢。不毛の砂漠に雨を降らし、美少女メイドと共に甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い~
66. 生臭坊主
「な、なんだ!? 何者だ!」
豪奢なベッドで若い女と寝ていた教皇は驚いて飛び起きる。でっぷりと太っただらしない恰好にオディールは幻滅しながら挨拶をする。
「夜分すみません。緊急のお願いがあって参りました」
「ふざけんな! 寝込みを襲ってお願いなんてありえんだろう!」
憤怒で顔を赤くした教皇を横目で見ながら、オディールはリュックから剣を一振り取り出し、すらりと抜いた。月光を浴びてギラリと鈍い光を放つ刀身を教皇の喉元に突きつけ、決然とした瞳で言葉を繰り返す。
「すみません。緊急のお願いがあって参りました……」
月明かりを浴びてオディールの碧眼は鋭くキラリと光った。
キャァッ!
隣で寝ていた若い女はおびえ、毛布で裸体を隠しながら後ずさる。
「な、な、な、なんじゃ? お前は確か公爵家の……」
「女神様を呼んで……。今すぐ!」
オディールは揺るぎない決意が宿る眼で教皇に迫り、その覚悟が空気を振るわせる。
「な、何を言ってるんだ! め、女神様なんて呼べる訳なかろう!」
教皇は両手を上げ、冷汗を垂らしながら後ずさりする。
「あんた教皇なんでしょ? この世で一番女神様に近い人。呼べないなんてことあり得ないわ! 早く!」
オディールは刀身で教皇の頬をなでるようにペシペシと叩く。
「ひ、ひぃ! 違う違う! うちは女神様を祀り、敬う組織であって、女神様と直接やり取りしてるわけじゃないんだ!」
「は? 女神様とは直接関係ない? じゃ、なんでいつも偉そうにしてるの?」
「な、なんでって……、昔からそういうもんなんだよ!」
教皇は悪びれもせず、怒鳴る。
「だから無駄じゃと言ったんじゃよ……」
後からやってきたレヴィアは首を振りながら言った。
「いやいやいや! 僕は神託の儀で女神様の声を聞いたんだよ!」
「あんなことは普通起こらんのだよ。普通は単にスキルが発現するだけだ」
「じゃ、本当に教会は女神様とは関係ないの?」
「ないんだよ! 勘違いも甚だしいな!」
「関係ない……。なら教会なんて無くていいよね?」
オディールは腹立ちまぎれに剣をベッドに振り下ろす。バスっ! と音をたてながらコイルが中から飛び出し、羽毛が舞った。
ひぃぃぃ! キャァ!
教皇は若い女と抱き合いながらオディールの激しい怒りに震える。
「もうええじゃろ」
レヴィアは右手を高く上げ、黄金に光る魔法の鎖を空中に浮かび上がらせると二人に向けて手を振り下ろす。魔法の鎖はクルクルッと二人に巻き付き、縛り上げた。
「な、何をするんだ! 外せ!」
二人は何とかしようともがくが、鎖はビクともしない。
「で、次はどうするんじゃ?」
レヴィアは渋い顔でオディールを見る。
一縷の望みが絶たれたオディールはギリッと奥歯をきしませる。
『くぅぅぅ……。どうしたら……、急がないと……』
頭を抱え必死に考えるオディール。ミラーナに残る時間はわずかだ。何としても女神様に会いに行かなければならないが、教皇が答えを持っていなかったら、誰に相談するべきなのだろうか?
くぅ……。
いくら考えてもアイディアなど出ない。
「ちくしょう! 女神像だ! 女神様の声を聞いたところへ行くよ!」
オディールは、最後の望みに縋りつくように、部屋を飛び出していった。
◇
カギのかかっていたドアを蹴破って、オディールは大聖堂内部へと突入する。
月光が柔らかく照らす中、女神像は幻想的に浮かび上がり、神々しい雰囲気を醸し出していた。
神託の儀式を思い出しながらオディールは荒い息のまま女神像の前でひざまずく。
「女神様! 女神様! お話があります!」
オディールは目をギュッとつぶり、必死に想いを女神像に捧げていく……。
けれども、神託の儀式の際に感じた女神の声は、どれほど切に祈っても訪れることはなかった。
「女神様ぁ! お願いなんですぅ……」
ここで願いが叶わなければ、もう希望の光は消えてしまう。それは、ミラーナの愛おしい笑顔を永遠に失ってしまうことを意味していた。
「うっうっう……。ミラーナぁ……」
いつでも自分のそばにいて笑顔で支えてくれた可憐な少女、ミラーナを失ってはもはや生きている意味さえ見いだせない。
「いやだよぉ……。ミラーナぁぁぁ!!」
涙が溢れ出す中、オディールは絶望に押し潰されるようにその場にくずれ落ちた。
レヴィアは沈痛な面持ちでそんなオディールを眺め、深くため息を漏らす。
運命の皮肉にもミラーナと生きていこうと決めた女神像の前で、ミラーナを救う道が閉ざされ、オディールは絶望の闇に取り込まれていった。
悲しみに揺れるオディールの金髪を月明かりが照らし、嗚咽が大聖堂内に静かに響き渡っていく。
◇
カツカツカツ……。
誰かが大聖堂に入ってきた。
「何か……お困りですか?」
魔法のランタンを手に、クリーム色の法衣をまとった若い女性が近づいてくる。
オディールはハッとしてその女性を見上げた。それは教会の侍祭だった。
豪奢なベッドで若い女と寝ていた教皇は驚いて飛び起きる。でっぷりと太っただらしない恰好にオディールは幻滅しながら挨拶をする。
「夜分すみません。緊急のお願いがあって参りました」
「ふざけんな! 寝込みを襲ってお願いなんてありえんだろう!」
憤怒で顔を赤くした教皇を横目で見ながら、オディールはリュックから剣を一振り取り出し、すらりと抜いた。月光を浴びてギラリと鈍い光を放つ刀身を教皇の喉元に突きつけ、決然とした瞳で言葉を繰り返す。
「すみません。緊急のお願いがあって参りました……」
月明かりを浴びてオディールの碧眼は鋭くキラリと光った。
キャァッ!
隣で寝ていた若い女はおびえ、毛布で裸体を隠しながら後ずさる。
「な、な、な、なんじゃ? お前は確か公爵家の……」
「女神様を呼んで……。今すぐ!」
オディールは揺るぎない決意が宿る眼で教皇に迫り、その覚悟が空気を振るわせる。
「な、何を言ってるんだ! め、女神様なんて呼べる訳なかろう!」
教皇は両手を上げ、冷汗を垂らしながら後ずさりする。
「あんた教皇なんでしょ? この世で一番女神様に近い人。呼べないなんてことあり得ないわ! 早く!」
オディールは刀身で教皇の頬をなでるようにペシペシと叩く。
「ひ、ひぃ! 違う違う! うちは女神様を祀り、敬う組織であって、女神様と直接やり取りしてるわけじゃないんだ!」
「は? 女神様とは直接関係ない? じゃ、なんでいつも偉そうにしてるの?」
「な、なんでって……、昔からそういうもんなんだよ!」
教皇は悪びれもせず、怒鳴る。
「だから無駄じゃと言ったんじゃよ……」
後からやってきたレヴィアは首を振りながら言った。
「いやいやいや! 僕は神託の儀で女神様の声を聞いたんだよ!」
「あんなことは普通起こらんのだよ。普通は単にスキルが発現するだけだ」
「じゃ、本当に教会は女神様とは関係ないの?」
「ないんだよ! 勘違いも甚だしいな!」
「関係ない……。なら教会なんて無くていいよね?」
オディールは腹立ちまぎれに剣をベッドに振り下ろす。バスっ! と音をたてながらコイルが中から飛び出し、羽毛が舞った。
ひぃぃぃ! キャァ!
教皇は若い女と抱き合いながらオディールの激しい怒りに震える。
「もうええじゃろ」
レヴィアは右手を高く上げ、黄金に光る魔法の鎖を空中に浮かび上がらせると二人に向けて手を振り下ろす。魔法の鎖はクルクルッと二人に巻き付き、縛り上げた。
「な、何をするんだ! 外せ!」
二人は何とかしようともがくが、鎖はビクともしない。
「で、次はどうするんじゃ?」
レヴィアは渋い顔でオディールを見る。
一縷の望みが絶たれたオディールはギリッと奥歯をきしませる。
『くぅぅぅ……。どうしたら……、急がないと……』
頭を抱え必死に考えるオディール。ミラーナに残る時間はわずかだ。何としても女神様に会いに行かなければならないが、教皇が答えを持っていなかったら、誰に相談するべきなのだろうか?
くぅ……。
いくら考えてもアイディアなど出ない。
「ちくしょう! 女神像だ! 女神様の声を聞いたところへ行くよ!」
オディールは、最後の望みに縋りつくように、部屋を飛び出していった。
◇
カギのかかっていたドアを蹴破って、オディールは大聖堂内部へと突入する。
月光が柔らかく照らす中、女神像は幻想的に浮かび上がり、神々しい雰囲気を醸し出していた。
神託の儀式を思い出しながらオディールは荒い息のまま女神像の前でひざまずく。
「女神様! 女神様! お話があります!」
オディールは目をギュッとつぶり、必死に想いを女神像に捧げていく……。
けれども、神託の儀式の際に感じた女神の声は、どれほど切に祈っても訪れることはなかった。
「女神様ぁ! お願いなんですぅ……」
ここで願いが叶わなければ、もう希望の光は消えてしまう。それは、ミラーナの愛おしい笑顔を永遠に失ってしまうことを意味していた。
「うっうっう……。ミラーナぁ……」
いつでも自分のそばにいて笑顔で支えてくれた可憐な少女、ミラーナを失ってはもはや生きている意味さえ見いだせない。
「いやだよぉ……。ミラーナぁぁぁ!!」
涙が溢れ出す中、オディールは絶望に押し潰されるようにその場にくずれ落ちた。
レヴィアは沈痛な面持ちでそんなオディールを眺め、深くため息を漏らす。
運命の皮肉にもミラーナと生きていこうと決めた女神像の前で、ミラーナを救う道が閉ざされ、オディールは絶望の闇に取り込まれていった。
悲しみに揺れるオディールの金髪を月明かりが照らし、嗚咽が大聖堂内に静かに響き渡っていく。
◇
カツカツカツ……。
誰かが大聖堂に入ってきた。
「何か……お困りですか?」
魔法のランタンを手に、クリーム色の法衣をまとった若い女性が近づいてくる。
オディールはハッとしてその女性を見上げた。それは教会の侍祭だった。