人肉病
ゾクリとするほどの美味が口の中に広がり、自分でも理解できない内に涙が滲んできた。


「美味しい……」


呟き、もう1度血をなめる。
今度は1度じゃやめなかった。
傷口について固まっている血を丹念にすべて舐め取る。

次に彼女の華奢な指先に視線を向けた。
そっと手に取ってみるとすべすべとした触り心地で、ほどよく柔らかい。
ここの肉はどんな味がするんだろう。
かぶりつけばすぐにでもなくなってしまうような細い手羽先。

私は口を大きく開いて彼女の小指に噛み付いた。
ガリッと骨の感触がして、それから歯を立てて肉だけを起用に剥ぎ取った。
少量の肉だけでも旨味が強くて、口の中で転がすと満足感が大きい。

更に隣の薬指にもかぶりつく。
彼女の指を一本食べる度に、彼女の記憶が自分の中に入り込んでくるような気がする。
柔らかくてしなやかな指先を持っているのは、ピアノでもやっていたからかもしれない。

中指の内側は少しくぼんでいて、ペンを持つ時間が多かったのだろうと予測された。
ペンだこまではできていないけれど、なかなかに勉強熱心だったのかもしれない。
それから先はもう夢中だった。
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