その首輪はお断りします!【マンガシナリオ】
〇その日の夜。夏目家、二階の廊下

 廊下を音を立てずに、そーっと歩く翼。
 お風呂上がりで、やや毛先が濡れている。肩にはタオルをかけていた。

翼(あともうちょっと……!)

 自分の部屋の手前にある、綾人の部屋の前に到着した。
 翼の部屋まであともう少し……だが、ガチャリと嫌な音がした。

 ビクゥッと翼の肩が跳ねる。
 真顔の綾人が、扉を開けてこちらを覗いていた。
 翼は頬が引き攣りながらも、どうにか喋りかける。

翼「あっ綾人君まだ起きてたんだ? 私はそろそろ寝ようかなぁ、なんて……。お、おやすみ〜」

 話を切り上げて、さっさと自分の部屋へ戻ろうと一歩踏み出した時。

綾人「……教室」

 綾人の一言にピシリと固まる翼。

翼「!!」

 固まった翼を見て、ジト目の綾人。

綾人「心当たりあるんだ?」
翼「教室? な、なんのこと?」

 あははー、と誤魔化しながら翼が綾人を見る。

 綾人は、ふっと微笑んだあと──部屋の中を指さした。
 翼もそれにつられるように、部屋の中を見てから首を傾げて、綾人に視線を戻した。

翼「?」
綾人「──ハウス」
翼(はうす? ……はうすってなんだっけ。人に使う言葉だっけ……?)
綾人「あれ、聞こえなかった?」

 綾人は翼の耳元に顔を近づけて、「ハウス」と色っぽい声で言う。
 顔を赤くして、バッと耳を手で塞ぐ翼。

綾人「今度は聞こえた?」
翼「……はい」

 涙目になりながら、翼は昨日の夜も座ったテーブル前に正座する。
 もちろん綾人は、ベッドに座った。
 いったい何を言われるのか、ダラダラと冷や汗をかく翼。

綾人「──ご主人様を置いて、先に行っちゃうなんて悪い子だね? 躾が必要かな」

 花が舞うような極上の笑顔。
 でもその壮絶な色気が、翼には恐ろしく感じた。
 
翼(ご立腹だ……!!)
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