その首輪はお断りします!【マンガシナリオ】
綾人「──二人でなにしてるの」
空き教室入り口に立つ綾人の姿。
顔は笑っておらず真顔で、手にはランチクロスに包まれたお弁当箱を持っている。
翼「綾人君……!?」
びっくりして、ティッシュを持ったまま固まる翼。
瑠叶「ん? 夏目さん、はやくふいてー」
綾人の事を気にしていない瑠叶は、空気を読まず、ふいてと翼にせがむ。
翼(ええっ、ちょ蓮水君には見えてないの? あの大魔王がっ!)
綾人「『なにしてるの』翼ちゃん?」
いつのまにか目の前まで来ていた綾人に、「ひぃっ!」と肩が跳ねる翼。
翼「や、あの、見ての通りお昼を……」
綾人「『二人きりで』お楽しみ中?」
翼(トゲ! 言葉にトゲがあるよ!)
スッと隣に視線をうつし、瑠叶を見る綾人。
瑠叶は待ちきれず、翼の手からティッシュを奪い取って口元をふいている。
ふき終わってから、見られている事に気付き「ん?」と綾人を見上げる。
瑠叶「君、だれ?」
綾人「……」
ピクッと綾人の片眉が上がる。
何かを感じ取った翼は、慌てて瑠叶に綾人を紹介した。
翼「蓮水君っ、この大魔王──じゃなくて! この人は私の兄妹で、夏目綾人っていうの。私達と同じクラスだよ」
瑠叶「へぇ。夏目君ね……あれ、でも夏目が二人だと、こんがらがっちゃうな。夏目さんの事、つーちゃんって呼んでいい?」
翼「つーちゃん!?」
瑠叶「だめ?」
こてんと首を傾ける瑠叶。
ズキュン、と胸に矢が刺さるような可愛さの衝撃がきた翼。
翼「ううん、いいよ!」
瑠叶「俺のことも瑠叶って呼んでいーよ、つーちゃん」
翼「じゃ、じゃあ瑠叶君って呼ぶね」
えへへ、と照れ臭そうな翼。
が、横から負のオーラが忍び寄る。
ぶるり、と体が震えた翼は綾人を見た。
綾人「(なに他の奴に尻尾ふってんの?)」
翼(ひぃっ!)
実際には喋ってはいないが、翼にはそう言っているように見えた。
サッと綾人から視線を逸らす翼。
瑠叶はというと、綾人を見てあだ名を考えていた。
瑠叶「夏目君の方はそうだな……あーやんって呼んでいい?」
綾人「それは断りたいかな」
瑠叶の提案を即座に断る綾人。
瑠叶「うーん。なら、もう綾人君でいい?」
綾人「……どうぞお好きに『蓮水君』」
瑠叶「わーい」
俺は君の事を下の名前で呼ぶ気はないぞ、の意味も込めて『蓮水君』を強調して言った綾人。
けれど、瑠叶に気にした様子はない。
それどころか、翼のお弁当を「次、どれ食べよう」と吟味している。
綾人は不機嫌そうな顔をした。
翼はそれがなぜだかわからず、おどおどする。
翼(綾人君、なんだかすごく機嫌悪くない? なんでなの??)
綾人「……翼ちゃん、立って」
翼「え?」
綾人「いいから立って」
しぶしぶ立つと、綾人は翼が座っていた椅子にドカッと座る。