その首輪はお断りします!【マンガシナリオ】

綾人「若倉、紹介するよ。俺の妹の翼ちゃん」

 翼は詩音に向かいペコリとお辞儀をする。

詩音「へー。夏目、妹いたっけ?」
綾人「父さんが再婚したんだ。見て、可愛い妹でしょ?」

 ぷに、と片手で翼の頬を挟む綾人。
 タコのような口になる翼。

翼「むむぅっ!?(なにしてんのっ!?)」
翼「むむんっむ!(離して!!)」

 ふふっ、と翼の顔を見て笑う綾人。

綾人「若倉は中学の時、同じクラスだったんだ。ほら、もっと若倉にも可愛い顔を見せてあげなよ」

 どうにか綾人の手を外し、ギャンッとまくし立てる翼。

翼「タコみたいな口の可愛いのっ!? 信じられない! ──ハッ!」

 じっとやりとりを見ていた詩音の視線に気づき、翼は慌てて弁解する。

翼「若倉さんこめんねっ! 変な顔を晒してちゃって……」
詩音「可愛いからいいんじゃない? あと名前、詩音でいいよ。あたしも、翼って呼んで良い?」
翼「えっ? う、うん! もちろん!」
翼(これは、高校での初友達では!!)

 内心ガッツポーズの翼。
 嬉しそうに答える翼が、パタパタと尻尾を振る犬にみえた詩音。

詩音「本当、夏目の妹とかもったいないくらい素直だね」
綾人「俺はどう受け取ればいいの、それ」
詩音「あれ、腹黒男って伝わった?」
綾人「…………」

 無表情で目元に影が差したかと思えば、パアァとキラキラ笑顔を浮かべた綾人。

綾人「ふふっ、なんのこと?」
詩音「あー、ヤダヤダ。それに騙される女子が多すぎ」
翼「あの! 詩音ちゃんっ」
詩音「ん?」
翼「詩音ちゃんは、綾人君とその……」
翼(うっ。仲良いの? とか、なんか私が綾人君の交友関係を、気にしてるみたいで聞きにくいっ!!)

 もじもじする翼。
 ピコーン、と何かを察した詩音。

詩音「夏目とは何もないから。こんな腹黒顔だけ男、きっと付き合った彼女は苦労するんじゃない? 彼女の事ペットとか思ってるタイプね。それに私の好きなタイプは『イケおじ』なの。あの渋い感じが、経験豊富な年月を感じられて、もう抱いてってなるよね」
翼「……へ?」

 ペラペラと早口で語る詩音。
 また始まった、と呆れ顔になる綾人。

綾人「若倉は年上好きなんだよ。それにズバズバものを言うからか、女の子の友達も少ないんだ。いい奴なんだけどね」
翼「そ、そうなんだ?」
翼(あれ……。なんで私いま、ほっとしたの……?)

 胸に手を当てて戸惑う翼。
 詩音はというと、まだペラペラと語っていた。


〇体育館。
 卒業式が行われている
 翼がパイプ椅子に座り、校長先生の話を聞いているシーン。詩音や綾人も話を聞いているが、瑠叶はうつらうつらと眠たそうにしている。


〇入学式が終わり、一年一組教室
 プリントなどが配られて、明日からの説明も終わり解散となった。
 詩音が鞄を持ち、立ち上がる。

詩音「早く家に帰って、録り溜めてるドラマ見なくちゃだから。また明日ね翼」
翼「うん、また明日。詩音ちゃん」

 教室を出て行く詩音に、手を振る翼。

女子生徒1「──ねぇ、綾人君って呼んでもいい?」
女子生徒2「同じ苗字の子って妹?」

 ふと騒がしくなり、前を向くと女子に囲まれている綾人が目に入る。

翼(うわ、すごい囲まれてる)

 戸惑いながらも、にこやかに女子生徒に接している綾人を見て、内心やさぐれた翼。

翼(みんな騙されれてるよ……)
(人当たりが良さそうな、爽やかイケメンに見えるかもしれないけどその人、義妹をペット扱いする大魔王だから!!)
(まぁ知らない方が幸せな事ってあるけど、まさに綾人君の事だよね)

 触らぬ神に祟りなし、とそそくさと教室を出ていく翼。
 廊下に出て、一応……と振り向き教室に居る綾人を見ると、パチリと目があった。

翼(ひぃぃっ! めっ、目が!)
 (目が笑ってない!!)

 笑顔でクラスの女子に接しているのに、目が笑っていない綾人。
 翼には『何ご主人様を置いて、先に帰ろうとしてるの? 駄犬ちゃん』と副音声が聞こえた。

翼(うっ! さすがにあの女子の群れに、突撃する勇気は私には無い)

 うだうだ悩んでいると、綾人の笑みが深まっていることに気づいた翼。
 『死』がよぎったとき、ピコーン、と翼はひらめく。

翼(──この世には、こんなことわざがあります)

 鞄をぎゅっと抱きしめて、深呼吸をした翼は綾人にニコリと笑みを向ける。
 不思議に思った綾人が、片眉を上げた。
 
翼(『逃げるが勝ち』ーー!!)
 
 ダッシュでその場から逃げる翼。
 生徒や保護者で賑わう廊下、人の波を潜り抜けていく。

翼(お母さんとの待ち合わせ場所は朝、車を止めた駐車場っ)

 靴を履き替えて、香織を探す翼。
 駐車場(グラウンド)入り口で、キョロキョロとしている香織を発見した。

翼(居た!)
翼「お母さーん!」

 翼に気づいた香織。

香織「あら。思ったよりはやかったわねぇ、『二人とも』」
翼「……え?」

 後ろから、禍々しいオーラが翼に忍び寄る。ギギギッ、と効果音つきで振り返る翼。
 後ろには笑顔の綾人が立っていた。

翼(い、いつのまに!?)
香織「二人で出てきたのね、仲が良くていいわぁ。うふふっ」
翼(ちがう、本当は私一人で出てきたはずなのよ! お母さんっ!!)
香織「さ、帰りましょう」

 歩き出す香織。
 翼は綾人が怖すぎて、香織の腕に抱きついた。

香織「あら、どうしたの」
翼「たまにはいいでしょっ?」
香織「もう高校生なのよ? ……まぁ、お母さんは嬉しいからいいけど」

翼(言えない……)
(後ろにいる【ご主人様】が怖いだなんて!)

 二人の後ろをゴゴゴと、音がつきそうな笑顔でついてくる綾人。
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