S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 今日の昼はこの予約だけだったので、夜の仕込みまでは少し休憩ができる。店は二階建てで、二階部分は倉庫と育郎と和葉の生活スペースになっている。そちらへ行くには外階段をのぼる必要があるので、和葉は一度店を出た。

 ちょうど雨があがり、雲の切れ間から陽光がさしていた。雨粒がキラキラと輝く紫陽花は見事だが、よく見ると庭のあちこちに手入れ不足が気になる部分があった。

(そろそろ生け垣の刈り込みをお願いしないとダメね。節約して頻度を減らしたいと思っていたけど、やっぱりきちんと管理しないと……)

 和葉は芙蓉の味に絶大な自信を持っているけれど、客が高級料亭に求めているのは味だけではない。きめ細やかな接客、上質で落ち着いた空間、安心と信頼に、客は高い金を払ってくれるのだ。
 和葉は小さくため息をついた。

(となると、これ以上どこを節約したらいいんだろう)

 料亭にかぎった話ではないが、飲食店の経営は決して簡単ではない。多店舗展開の大企業にでもならないかぎりは、そう儲けの大きい商売ではないからだ。
 この国は長引く不況に喘いでいるし、接待・縁談・結納といった高級料亭の出番は時代の流れで減る一方だ。

 芙蓉の財政状況も楽ではない……どころではなく、白状すればかなり厳しい。数年前に、どうしても必要な耐震補強工事のために銀行から借りた金の返済に苦心していた。
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