S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 甘美なキスに溶かされる。今だけはダメ人間でもいいかもしれない、そんなふうに思って和葉は彼の唇を受け入れた。

「あ」
「どうした?」

 ようやく唇が解放されたタイミングで、和葉はあることを思い出す。

「大事なことをもうひとつ、聞き忘れていました」

 まっすぐに柾樹の目を見て、尋ねる。

「あの、もしかしたら……私と柾樹さんは過去に会ったことがあるんですか? 私が忘れてしまっている昔に」

 ただの自惚れの可能性もあるが……柾樹の発言や行動から考えると、彼と自分にはなにかつながりがあったのでは?という推測は、あながち間違いでもない気がしてくるのだ。

(俺さまな態度のおかげで見えづらかったけど、考えてみれば……柾樹さんは最初から私に親切すぎたもの)

 行動だけを見れば、彼はずっと和葉を大切にしてくれている。出会ったばかりの女性に対する態度としてはありえないほどに。

 長い沈黙がおりた。
 柾樹は難しい顔で逡巡したすえに、ようやく口を開く。

「和葉に嘘はつきたくないから正直に言う。答えはイエスだ」
「やっぱり! ごめんなさい、私……必死に考えても、どうしても思い出せなくて」

 彼は覚えてくれているのに、自分は忘れてしまっている。逆の立場だったらとても悲しいと思う。柾樹への申し訳なさでいっぱいになる。

「大丈夫だ。聞いてくれ、和葉」

 彼は和葉を落ち着かせるよう、ゆっくりと語りかける。
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