S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 安吾はあまり家庭環境に恵まれず十代前半の頃は荒れに荒れていて、警察の厄介になったことも一度や二度じゃないそうだ。けれど、和葉の知る、芙蓉に来てからの彼は仕事熱心な努力家だ。育郎も彼の筋のよさは認めている。

 育郎は料理に関してはいっさいの妥協を許さない人間で、和葉も一時期は彼の指導で和食を習ったのだが、『う~ん。和葉は家庭料理と接客専門だな』とばっさり結論づけられてしまったくらいだ。

 はっきりと口にしているわけではないが、育郎はいずれ店を安吾に任せるつもりでいるのだろう。人柄も料理の腕も、彼ならば安心だと和葉も思っていた。

「それにしても、さっきの……円城寺の御曹司はとんでもないイケメンでしたね」
「え~、そうかなぁ」

 和葉は顔をしかめる。それを見た安吾は意外そうに目を丸くした。

「和葉お嬢さんの好みではなかったですか? 俺は俳優でも来たのかと、びっくりしましたけどね」
「まぁ顔はかっこいいけど……なんとなく、雰囲気とか」

 モゴモゴと和葉はつぶやく。

 沙月への失礼な態度の件はもちろん話せない。安吾は「ははっ」と声をあげて笑う。

「あのレベルの男でもお眼鏡にかなわないとなると……お嬢さんが恋人を紹介してくれる日はだいぶ先になりそうだ!」
「安吾くんだって。モテるくせに、ちっとも彼女を紹介してくれないじゃない」
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