S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
「まさきくんっていうの? じゃあ、まーくんだね!」
「こらっ、和葉。柾樹お坊ちゃまと呼びなさい」
「え~言いづらい……」
和葉は口をとがらせる。天真爛漫で底抜けに明るい少女だった。
「いいよ、別に。それで」
どうしてそんなふうに答えたのか、自分でもわからない。不思議と「なれなれしい」とも「嫌だ」とも思わなかったのだ。
『まーくん』
彼女が自分を呼ぶ声は、いつも柾樹の耳に心地よく響いた。
和葉はあっという間に屋敷になじみ、従業員からも柾樹の家族からもかわいがられた。
柾樹にとっても、彼女は心を許せる唯一の存在になっていた。
和葉が来て一年が過ぎた、ある冬の日。
錦鯉の泳ぐ池、手入れの行き届いた立派な松の木、贅を尽くした日本庭園。それをぐるりと囲う築地塀。誰もがうらやむ豪勢なお屋敷。
けれど幼い柾樹の目には、この高い塀が自分を閉じ込める檻のように見えていた。父も母も大好きで尊敬している。だからこそ、ときどきプレッシャーに押しつぶされそうになるのだ。右手に持っていた返ってきたばかりの答案用紙に、柾樹はちらりと視線を落とす。まるでなかったことにするように、ぐしゃりとそれを握りつぶしてズボンのポケットに突っ込んだ。
師走の冷たい風が柾樹の頬を刺す。喉からヒューヒューと嫌な音がして、柾樹はグッとシャツの胸元をつかんだ。
「まーくん! どうしたの、大丈夫?」
「こらっ、和葉。柾樹お坊ちゃまと呼びなさい」
「え~言いづらい……」
和葉は口をとがらせる。天真爛漫で底抜けに明るい少女だった。
「いいよ、別に。それで」
どうしてそんなふうに答えたのか、自分でもわからない。不思議と「なれなれしい」とも「嫌だ」とも思わなかったのだ。
『まーくん』
彼女が自分を呼ぶ声は、いつも柾樹の耳に心地よく響いた。
和葉はあっという間に屋敷になじみ、従業員からも柾樹の家族からもかわいがられた。
柾樹にとっても、彼女は心を許せる唯一の存在になっていた。
和葉が来て一年が過ぎた、ある冬の日。
錦鯉の泳ぐ池、手入れの行き届いた立派な松の木、贅を尽くした日本庭園。それをぐるりと囲う築地塀。誰もがうらやむ豪勢なお屋敷。
けれど幼い柾樹の目には、この高い塀が自分を閉じ込める檻のように見えていた。父も母も大好きで尊敬している。だからこそ、ときどきプレッシャーに押しつぶされそうになるのだ。右手に持っていた返ってきたばかりの答案用紙に、柾樹はちらりと視線を落とす。まるでなかったことにするように、ぐしゃりとそれを握りつぶしてズボンのポケットに突っ込んだ。
師走の冷たい風が柾樹の頬を刺す。喉からヒューヒューと嫌な音がして、柾樹はグッとシャツの胸元をつかんだ。
「まーくん! どうしたの、大丈夫?」