S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 ウキウキした様子で寧々は言う。彼女も、もちろん柾樹も、断られることは想定していなかった。これでまたいつでも、和葉に会うことができると思っていた。
 ところが、和葉の祖父、育郎の答えはノーだった。

 寧々は神妙な表情で柾樹に説明してくれる。

「それがね、和葉ちゃん……お母さんを亡くしたショックで記憶障害を起こしているそうなの。お母さんのことすら、よく覚えていないって。だから柾樹や私のことも――」

 寧々の言葉を遮って、柾樹は叫ぶ。

「そんなはずない。会えば絶対に思い出すよ。和葉が俺を忘れるはずない!」

 だって約束したのだ。絶対に忘れないと――。

「会わせてよ、頼むから」

 聞き分けのいい優等生だった柾樹が駄々をこねたことに、寧々はとても驚いていた。家のことはたいてい自分で解決する彼女が珍しく、柾樹の父親である芳樹を頼った。

「柾樹。気持ちはわかるが……記憶障害はデリケートで難しい症状なんだ。私が和葉ちゃんのおじいさんの立場でも、おそらく同じことを言うと思う」

 育郎は円城寺家には心から感謝していると言ってくれたらしい。それでも『和葉には会わないでくれ』と彼が頼む理由は、もちろん和葉のためだ。

「無理に思い出そうとするより、新しい生活を大事に。そのとおりだよ。和葉ちゃんのためを思うなら……わかるな」
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