S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
(和葉に……会いに行ってみようか?)

 そう考えるたびに、臆病風に吹かれて足を踏み出せなくなる。
 和葉を苦しめたくないという思いが半分、残り半分は……ただの恐怖心だ。
 彼女は明るくて強いから、きっと幸せに暮らしているだろう。それを知って安心したい気持ちもあるが、彼女の人生に自分は必要ないのだと目の当たりにするのが怖くもある。

(いいかげん、踏ん切りをつけるべきなんだろうな)

 あらためて確認しに行くまでもなく、和葉はもう柾樹の存在しない道を歩んでいるのだ。

 久野沙月との縁談が持ちあがったのはそんなときだった。といっても、縁談の話自体はしょっちゅう舞い込むので柾樹にとっては驚くことでもない。ただ、これまでと違うのは……久野沙月は柾樹の妻として完璧すぎるのだ。

「これ以上はない良縁だと思うぞ。久野家は同じ医療業界に身を置く良家、沙月さんのご両親の人柄もすばらしい。なにより沙月さん本人が、素晴らしい女性なんだ。柾樹くんも会えば絶対に気に入るはずだ」

 今回の縁談を持ちかけてきたのは柾樹のハトコに当たる人物だ。彼は鼻息荒く力説した。すっかり沙月のファンになっている様子だ。

(まぁ、実際……ちょうどいい相手だよな)
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