S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 この場所には望月家の、和香子の眠る墓があるのだ。
 墓石の前にかがみこみ、ふたりで手を合わせる。

「――お母さんのこと、やっと思い出せたよ。あんなに大切に育ててもらっていたのに……ずっと忘れてて、親不孝な娘でごめんね」

 朝ごはんの定番だった玉子焼きの味、おそろいのギンガムチェックのワンピ―ス、怒ったときの意外と怖い顔、頭を撫でてくれる温かい手。

 どうして忘れていられたのか、こんなにも大事な思い出たちを――。

(私、お母さんのことが世界で一番、大好きだった)

 記憶を取り戻したことを涙声で報告する和葉を、柾樹は優しく見守っている。
 ふわりと優しい風が吹き、ふたりのそばを通りすぎていく。

〝そんなこと、気にしないの〟

 風にのって、和香子の声が届いた気がした。
 和葉は涙を拭って、和香子に笑顔を見せる。

「お母さんと約束した花嫁姿、ちゃんと見せられそうだよ。楽しみにしていてね!」

 結婚式の日は晴れるといい。そうしたら、天国からもきっとよく見えるだろうから。
 和葉に代わり、今度は柾樹が口を開いた。

「お久しぶりです、和香子さん」

 彼は懐かしそうに目を細める。そういえば、彼は和香子のことをそんなふうに呼んでいた。

「心配をかけた喘息は、すっかりよくなりましたよ」

 柾樹の言葉に和葉はクスクスと笑う。それから、柾樹は表情を引き締めて真剣な声で告げる。
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