S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 破水から始まったことは少し驚いたけど、柾樹の帰宅後だったことは幸いだ。もしかしたら、赤ちゃん誕生の瞬間に彼も立ち会えるかもしれない。
 柾樹はかかりつけの円城寺系列の病院に電話を済ませ、準備万端で用意してあった入院用バッグを手に取る。

「俺の運転でいいよな? 明日は大きな手術もないし、あとで医局に連絡して俺も明日は休みを取れるように――」

 そう言った瞬間、胸ポケットにしまってあった彼のスマホが鳴った。和葉に断りを入れて、柾樹はそれに応答した。黒いスマホは……仕事用だ。

「そうか。いや……わかった」

 彼は落ち着いた声で答えてはいるが、表情は沈んでいる。通話を終えた彼に和葉は言う。彼が気にやまないよう、できるだけ明るい声を出した。

「……呼び出し、ですよね」
「あぁ。高速道路の玉突き事故で、オンコールの医師を総動員しても人手不足な状況らしい」

 柾樹も頭ではどうすべきか理解しているはずだが、心は決心がつかない様子だった。和葉に「ごめん」のひと言を伝えるのをためらっている。

(本当は柾樹さんにそばにいてほしいけど……)

 そんな思いに蓋をして、和葉は彼の背中を押す。

「ほら。のんびりしていないで早く病院に行かないと! 患者さんが待ってるんですから」
「……和葉」

 和葉はにっこりとほほ笑んだ。
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