S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
「……おじいちゃん。今どきはもう、カセットテープは使われてないよ」

 和葉も育郎も明るく会話を続けていたが、銀行からの、いわゆる〝貸しはがし〟がどんどん厳しくなってきていた。

 返済期限にはまだ猶予があるのに、この仕打ちだ。銀行側は事業拡大の見込みのない芙蓉をさっさと切りたいと考えているのだろう。

(ほかに融資してくれそうなところも見つからないし、頭の痛い問題だわ)

 それから、半月後。
 夜の営業が始まり店内に出た和葉は、カウンターに座っている男の姿に目を丸くした。

(円城寺柾樹? なんでいるのよ?)

 慌てて踵を返すと、厨房の奥で配膳の準備をしていた登美子に近づき、そっとささやく。

「今夜、ひとり客の予約なんて入ってた?」

 芙蓉は完全予約制だ。昨日確認した客のリストに円城寺の名はなかったはず。

「あぁ。お昼に電話があって、カウンターのひとりくらいなら受けて構わないと育郎さんがおっしゃったのよ」
「そうだったんだ」
「和葉ちゃん、昼はお休みだったものね」

 今日の昼は予約が少なかったため、和葉は休みをもらっていたのだ。

(まぁ一見さんではないし、そりゃ断る必要もないけどさ……)

「育郎さんが自らお出迎えして、少しお話もしてたわよ。まぁ、うちの常連さんにも円城寺家には頭があがらないって方は多いだろうし、むげにはできないわよね」

 登美子は夢見る少女のような目でうっとりと言う。
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