S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
「それに、とびきり素敵だもの~。いてくれるだけで店の格があがると思わない? 私も目の保養になるし」

 登美子は小学生の孫娘と一緒にアイドルのコンサートに出かけるのが趣味で、和葉よりよほど芸能人や流行に詳しいのだ。

「まぁ……見た目はたしかに」

 その点だけは和葉も否定できない。

 彼がいると思うと、やけに落ち着かない気持ちになる。気にしない!と思うほど、無意識に視線は彼に吸い寄せられる。
 チラチラと彼を意識してしまっている和葉とは違って、柾樹はもう和葉の存在などすっかり忘れた様子だ。ときおり、育郎と会話をしながら徳利を傾けていた。

 先日のことを覚えているのは自分だけなのかと思うと、むなしいような悔しいような……和葉の胸中は複雑だった。

 今夜は長居する客がおらず、九時過ぎには静かになってしまった。店内に残っているのは、もう柾樹だけだ。

 厨房のなかで、和葉は登美子を呼び止める。

「登美子さん、先にあがって」
「あら、いいの?」
「もうお客さまはひとりだけだし、私は昼にお休みをいただいたから!」

 笑顔で告げて、和葉は登美子を帰す。育郎と安吾も片づけと明日の営業準備のため、奥へ引っ込んでしまった。
 そのため、柾樹への最後の品は和葉が提供することになった。
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