S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 締めの甘味、葛餅に枇杷のコンポートを添えたものは安吾が作った一品だ。育郎はこのところ、先付けや甘味は彼に任せるようになっていた。お客さまからも好評だし、安吾の腕を認めているのだろう。

「甘味でございます」

 そう声をかけて、彼の前に美濃焼の皿を置く。

「どうも」

 柾樹は今日初めて、和葉に視線を向けた。ふっと彼の目元が緩む。ただそれだけのことで、和葉の胸は小さく跳ねた。

 柾樹という男の持つ華は圧倒的だ。彼に好意などまったくないはずなのに、目も、意識も、吸い寄せられてしまう。おそらく、彼を前にした人間はみな同じ反応になるだろう。

(心底、悔しいけど……特別な人間ってやっぱりいるのね)

「――俺に惚れたか?」
「は?」

 ふいにかけられた言葉に和葉の声が裏返る。柾樹はいたずらな瞳で、棒立ちになっている和葉を見あげる。

「さっきから、ずっとチラチラ見てる」
「み、見てません!」
「焦るのは図星な証拠だな」

 顔を真っ赤にしている和葉とは対照的に、彼は余裕たっぷりにほほ笑んでみせた。

 断じて惚れてはいないが、意識していたのは事実なので反論できない。うつむき唇をかむ和葉を、からかうように彼は言う。

「それとも、店のために媚びを売る気になったか?」
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