S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 声の主は柾樹だった。彼は和葉を押しのけて育郎のそばに膝をつく。

「ど、どうしてあなたが……」
「医師免許は持っている。お前がわめくより絶対にマシだから、黙って任せておけ」

 そう言い捨てると、柾樹はもう和葉には目もくれず、テキパキと育郎の処置を始めた。育郎の身体をゆっくりと横向きにし、意識レベルを確認している。その落ち着いた対応を見るかぎり、免許があるという言葉は本当のようだ。

「きゅ、救急車! 早く呼ばないと……」

 突然の事態に呆然としていた安吾が弾かれたように声をあげた。

「そ、そうよね」

 和葉も我に返り、震える手でポケットからスマホを取り出す。

「いい。うちの病院からドクターカーを呼ぶ。おそらくそのほうが早い」

 柾樹は育郎の様子を見ながら、素早くどこかに電話をかけた。彼の言ったとおり、本当に救急車より早いくらいのスピードで『円城寺メディカルセンター』の名前が入った搬送車が到着した。柾樹は素早く育郎を乗せると、和葉にも「乗れ」と声をかけた。

「安吾くん。お店をお願いできる?」
「当たり前です。和葉お嬢さんは師匠についていてください」

 あとのことを彼に任せて、和葉は育郎に付き添ってドクターカーに乗った。内部には救急車と同じように医療機器が搭載されていて、看護師らしき女性が慌ただしく動いている。

 目の前に広がる緊迫した光景が、まずます和葉の不安を煽る。
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