S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
「なら、また店に行く。そのときに一杯おごってくれ」

 彼は育郎の治療が終わるまで、ずっと隣に座っていてくれた。

 一時間後。育郎を診てくれた医師が処置室から出てくる。

 柾樹の推測どおり、育郎は脳卒中だった。対応が迅速だったので、すぐに危険な状況におちいることはないと説明され、和葉は胸を撫でおろした。

「とはいえ、最低でも二週間は入院になるし、仕事への復帰には時間がかかるかもしれない。店は大丈夫か?」

 柾樹は深刻そうに眉をひそめる。

「まずは、おじいちゃんが元気になってくれることが一番です。店には安吾くんもいてくれるし」

 最近は料理を安吾に任せることも増えてきていて、彼のファンも多い。育郎が不在でも客足がゼロにはならないはず。もちろん、それなりの数のキャンセルも出るだろうが……。

「必要以上に不安になる必要はないんだが……」

 そう前置きして、彼はややためらいがちに続けた。

「脳卒中は大きな病気が原因となって引き起こされるケースも多い。入院期間中に育郎さんもさまざまな検査を受けることになると思う」

 大きな病気という単語に和葉の心臓は凍りつく。落ち着こうと思っても声が震えた。

「大きな病気って、たとえば?」
「――癌、とかな」

 育郎の娘である和香子は、大腸癌で亡くなったのだ。育郎に同じ病が発症しても不思議はないだろう。
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