S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 店の電話を持って登美子が言う。柾樹は和葉に視線で「どうぞ」と促す。和葉は彼に軽く頭をさげ、登美子から電話を受け取った。登美子は気を使ったのか、すぐに店の奥に引っ込んでしまった。

「はい、望月です」

 銀行の用件はいつものあれだ。「さっさと金を返せ」のひと言を、いやに回りくどく、ねちっこく伝えてくる。

「申し訳ありません。でも、もう少しだけ待ってくださいませんか? 実は――」

 多少は配慮してくれるかと期待して育郎の体調不良を正直に話したが、完全に逆効果になってしまった。店がピンチだとわかると、銀行マンはますます強気になって借金返済を催促してくる。

「えぇ。来週また、こちらからご連絡しますので」

 深いため息とともに、和葉は電話を切った。

(失態だった。おじいちゃんの体調不良のことなんて話すんじゃなかった)

 弱みを見せたらつけ込まれる、ビジネスの場では当然のことだ。
 落ち込んだ様子の和葉に柾樹が声をかける。

「金融機関か?」
「あ、はい。メインバンクの五味(ごみ)銀行さんです」
「――貸しはがしか?」
「まぁ、そんなところです」

 今の会話を聞かれていた以上、ごまかしてもバレバレだろう。

「資金繰りが厳しいのか?」
「うちだけにかぎった話ではないですけどね、飲食店はどこも苦しんでいますから」
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