S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 腐るほどの財産を持つこの人にはわからないだろうなと、ちょっと卑屈な気持ちになる。それからハッとあることに思い至った。

「あ、あの……癌の治療って当然お金がかかりますよね?」

 医療保険は最低限のレベルでしか入っていない。それで、まかなえるものだろうか。

「法外な治療費がかかるわけではないが……」

 その後の言葉を彼はにごしたが、ある程度の用意はしておけということなのだと読み取った。

(だ、大丈夫よね? 銀行にはもう少し返事を待ってもらって、まずはおじいちゃんの治療を優先で考えて……)

 和葉の動揺が伝わったのだろう。柾樹は彼らしくもなく、遠慮がちに言葉を重ねる。

「もし――」
「大丈夫です! どんなことをしてでも都合をつけるので、おじいちゃんには最善の治療をお願いします」

 柾樹の言葉を遮って、和葉は宣言した。
 銀行への返済、育郎不在時の店の売上、心配なことばかりではあるが、育郎の命より大事なものなんかない。

(たったひとりの家族を……失いたくない)

「おじいちゃんが助かるなら、なんでもする」

 思わずつぶやいた和葉の決意を柾樹は黙って聞いていた。しばしの沈黙ののちに、彼は言う。

「本当に、なんでもする気があるか?」

 和葉の覚悟を確かめるように、柾樹は彼女の瞳をのぞき込む。和葉は彼を見返す。

「もちろん。休みの日にバイトでもなんでもして、お金は用意します」
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