S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 柾樹も、あの縁談のときの印象ほど嫌な男ではないこともわかった。ふたりは似合いの夫婦になれると思うのだ。だが、柾樹はにべもない。

「あの場で発言したとおり、彼女を妻にしたいとは思えないんだよ」
「沙月さんに不満を抱くほど女性の理想が高いのであれば、私ではとうてい満足できないと思いますけど」

 これは正直な気持ちだった。彼はやっぱり〝選ばれし人間〟で、自分とは住む世界が違う。パートナーとして生きていくことなど、想像もできない。

「沙月さんでなくても……あなたなら、妻になりたいと望む女性はたくさんいるでしょう?」
「そう簡単でもないんだよなぁ」

 柾樹は面倒くさそうに、深いため息をつく。彼のほうも本音をさらけ出している、そんな気がした。

「知ってのとおり、うちは財閥だ。いくらでも引き出せるATMだからな。なにがなんでも縁続きになって、骨の髄までしゃぶりつくしてやろうと狙っている連中ばかりだ」

 大金持ちには庶民にはわからない苦労があるということだろうか。

「その点、育郎さんはそういう業の深さとは無縁の人間に見えた。和葉が俺に期待する、治療費と芙蓉の借金程度なら円城寺家には安いもんだ。老舗料亭の孫娘なら、世間への聞こえも悪くない」

 ずいぶんと遠慮のない物言いだが、そのぶん嘘はなさそうだ。彼なりに誠意を見せているつもりなのかもしれない。不快な気持ちにはならなかった。
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