S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
「私じゃなくて、安吾くんが車好きなんです。この車、所有は無理でも一度でいいから運転してみたいと言ってました」

 この車は高級車マニアの間でも特に人気の車種で、国内に数えるほどしか流通していないと安吾が言っていた。中古車でもウン千万円という、庶民には手の届かない代物だ。

「安吾……あぁ、育郎さんの弟子の彼か」
「もしよかったら、今度――」

 安吾に見せてやってほしいと頼もうとしたが、柾樹の顔が露骨に不機嫌になったので口をつぐむ。

「デートでほかの男の名前を出すのはマナー違反だろう」

 高級車を前にミーハーにはしゃいだことが不快だったのかと思っていたが、違ったらしい。少年のようにふて腐れている彼を、ちょっとだけかわいいと思った。

「そうですね。失礼しました」

 彼がきちんとデートらしくしようと努力してくれるのなら、自分もそうするべきだと考え直す。柾樹はふっと目を細めて和葉を見る。

「今日は一日中、俺のことだけ考えてろ」
「そんなキザな台詞が次から次へとよく思い浮かびますね」
「けど、似合うだろ?」

 和葉は諦めて、小さく肩を落とす。
 傲慢な俺さまなのに、どこか憎めないのは彼のずるいところだ。

(でも、沙月さんへの仕打ちは忘れていないわよ。全面的には信用できない!)

「どこに行くんですか?」
「ホテル」

 端的な彼の答えに和葉は思いきり顔をゆがめる。

「――いやらしい。最低っ」
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