S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 しばらくすると、サーブの女性がふたりのテーブルに前菜を運んできた。

「わぁ、綺麗!」

 前菜はホタテをメインにした一品だ。カラスミが散らされ、彩りも美しい。口に入れるとほのかな紫蘇の風味が広がった。

「うん。紫蘇がいいアクセントになって、おいしい」
「芙蓉の看板娘のお気に召したとあれば、うちのシェフもきっと喜ぶよ」
「おいしいものをかぎ分ける能力なら、円城寺さんにも負けないと思います」

 和葉はまんざらでもない顔で返した。作るほうの才能はなかったが、食べるほうは自信がある。
 スープも、メインの和牛フィレ肉のポワレも、提供される料理はどれも素晴らしい味だった。メインを食べ終わったタイミングで、柾樹が話を切り出す。

「育郎さんのことだが、脳卒中の後遺症も見られないし、そろそろ癌のほうの手術を検討したいと思ってる」
「……手術。したほうが、おじいちゃんが助かる確率は高くなりますか?」

 柾樹はうなずく。

「あぁ。大腸癌はきっちり取り切って、完治させられる病気だ。幸い、育郎さんはまだ手術が可能な状態だし」

 手術への恐怖はやはりある。
 けれど、完治して育郎がまた包丁を握れるようになるのなら……それが一番だ。
 和葉は顔をあげ、柾樹をみつめた。

「円城寺先生。祖父を、よろしくお願いします」

 少し迷ってから、和葉はつけ足す。

「先生を……信じます」
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