S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 予想外の歓迎を受け、円城寺家へのあいさつは無事に終了した。ふたりに別れのあいさつを告げ、応接間を出ると急に柾樹が手を握ってきた。

「えぇ、なんでですか?」
「名実ともに婚約者になったから。和葉もそのつもりでいろよ」

〝無理ですよ〟

 これまでだったら、きっとそんなふうに言い返していた。でも今は言葉が出なかった。柾樹がそう言ってくれることが少しだけ……うれしかったからだ。

 寧々たちと過ごす時間も温かくて、もっと仲良くなりたいと素直に思えた。

 和葉は固く握られた手にそっと視線を落とす。

(私はお金目当てだし、この人は都合のいい妻が欲しいだけ。でも……一緒に過ごせば、それ以上の気持ちが生まれることもあるのかな)

『俺は和葉を愛するし、それ以上の重みで、お前も俺を愛するようになる』

 いつか彼から言われた言葉が耳に蘇る。そんな日が来るかもしれないと、思ってもいいのだろうか。和葉は隠しきれない照れをごまかすように、唇をとがらせる。

「とりあえず今は手を放してください」
「なんでだよ?」
「お手洗いに行きたいからです」

 柾樹は素直に和葉の手を解放し、お手洗いの場所を教えてくれた。

「迷子になるなよ」
「子ども扱いしないでください!」

 そう言って彼に背を向けたものの、たしかにこの屋敷は迷っても不思議はないほどの広さだった。
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